松沢呉一のビバノン・ライフ

法に則らない民間の懲罰の方が怖い—懲戒の基準[3]-(松沢呉一)

同じシリーズをバラしたため、つながりがわかりにくくなってますが、「各私大が東洋大に学ぶべき点もある—懲戒の基準[2]」の続きであるとともに、「「私は不快」を押し通していいのは独裁者—Facebookの基準[2]」からもつながってます。

 

 

 

怖いのは民間の懲罰

 

vivanon_sentence所詮SNSではもっとも厳しい処分でもアカウントを失うだけですから、規制範囲が法よりも広くてもいいとして(限度はあれども)、やはり基準は明確にしておく必要があります。さもないと、どこまでやっていいのかもわからず、萎縮が際限なく広がってしまいます。

私は米国のように、その基準のないところで、民間の懲罰的な処分がなされる方が基準が明確な法による処罰よりも怖い。いわば私刑であります。リンチやポグロムと一緒。あるいはナチスと一緒(ナチス政権下では、ナチスも法に則っていない処刑をやっていますし、国民もやってます。これについてはナチス・シリーズにそのうち出てきます)。

法に反するわけではないヘイトスピーチをプライベートの時間にネットに書いたり、どこかで発言することで解雇されるような例です。

比較的最近だとこの例。

 

2018年11月5日付「クーリエ・ジャポン」掲載

ヘイトスピーチで「年収1千万の仕事」をクビになった女」より

 

アメリカで先週、自称「ホットな白人女性」が「サウスパーク・スーザン」のあだ名で世間を騒がせた。

事の始まりは10月19日、金曜の夜。ノースカロライナ州シャーロットの裕福な地区サウスパークで事件は起きた。

とあるマンションの駐車場でエンジンがかからなくなった黒人の姉妹2人がロードサービスを待っていたところ、酒の匂いを漂わせたスーザン・ウェストウッド(51)が近づいてきた。

足元がふらふらのウェストウッドは、「この高級住宅街に黒人はお呼びじゃないの」と言わんばかりに、姉妹にからみはじめた。

(略)

ウェストウッドはしまいには「ビッチたち、ここから出ていきな」と叫び、「隠してある銃を出す必要があるかい?」と姉妹を脅した。

脅威を感じた姉妹は「911番」に緊急通報。一方のウェストウッドも「黒人が私の家に押し入ろうとしている」と通報した。

(略)

NBC」ニュースなどによれば、ウェストウッドが働いていたケーブルテレビ会社は彼女の解雇を発表。「わが社の行動規範に著しく反する行為であり、ウェストウッド氏との雇用契約を即時解除する」との声明を出した。

「年収1万2500ドル」と自慢していた会社をクビなったウェストウッドは、住んでいたマンションからも契約解除を告げられたという。

(略)

こうして「渦中の人」となったサウスパーク・スーザンだが、事件後に彼女のコメントを取ることができたメディアはなかった。行方をくらましていたからだ。

報道によると、ウェストウッドは単純暴行と脅迫、911番通報の乱用といった軽罪に問われたが、事件後に消息を絶ったという。警察は結局、30日に逮捕状を発行した。

 

 

この場合は条件を満たしているとも言えるのだけれど

 

vivanon_sentence「単純暴行」というのが何を指すのかわからないですが、「脅迫」は銃を持ち出すことを示唆していることでしょうか。刑事罰に問われる可能性があるとは言えども、軽微な犯罪である上に、本人の言い分さえ聞いていない段階で犯罪者扱いにして、仕事や家まで失うのが適切なのかどうか。

 

 

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