ヘレーネ・ベヒシュタインとヘンリエッテ・フォン・シーラッハ—ヒトラーを援助した女とヒトラーに抗議した女-(松沢呉一)
ヒトラーをサポートした上流階級の女たち
ヒトラーをドイツの多くの女たちが支持しました。ただ投票する、手を振る、家に写真を飾るなんてことだけではなくて、ナチス初期にヒトラーに金銭的援助をしていたのは上流の婦人方でした。
初期ナチスの党員であり、人種主義の神秘学秘密結社トゥーレ協会のメンバーでもあった劇作家ディートリッヒ・エッカート(Dietrich Eckart)という人物がいます。私はその存在さえ今まで知らなかったのですが、重要人物です。
彼が社交界にヒトラーを紹介し、ここでカローラ・ホフマン、ヘレーネ・ベヒシュタインといった上流階級の女たちと知り合い。彼女らはヒトラーに惹かれてパトロンとなっています。
カローラ・ホフマンはネットで調べてもおばあちゃんだったことしかわからず。ヘレーネ・ベヒシュタインはピアノ・メーカーであるベヒシュタイン社の所有者の妻。1976年生なので、ヒトラーより13歳歳上です。
彼女は戦後、裁判で60日間の労役を言い渡されています。軽い刑ではありますが、党員でもないのに有罪になったってことは、ヒトラーへの貢献度が高いと評価されたってことです。
労役ってたぶん袋張りみたいな簡単な作業でしょうけど、ユダヤ人が強制されたのと同じく、道路の舗装等の重労働を課せばよかったのに。
Wikipediaにも簡単にベヒシュタイン社とナチスとの関係が書かれています。
第二次大戦中ナチス・ドイツに協力したとして(ヒトラーはベヒシュタインを「第三帝国のピアノ」としていた)、戦後はドイツ人のナチズムからの脱却とともにその栄光の座から退いていくこととなった。
これだけだと、あたかもヒトラーが一方的に思い入れただけのようです。それだけだったら、戦後、ドイツで買い控えるようなところまでは至らないでしょう。フォルクスワーゲンなんざナチスが作った会社なんだし。
実際にはベヒシュタイン(の妻)がナチスに思い入れ、多額の援助をしていたのであって、このヒトラーの言葉はその見返りみたいなものではなかろうか。
すでに経営はベヒシュタイン家ではなくなっているようですから、ペダルの裏にハーケンクロイツが彫られているなんてことはなく(当時もないし)、いまさら触れられたくないでしょうけど、事実とは事実として書いておきました。
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