松沢呉一のビバノン・ライフ

党の綱領を読めばわかったはず—『アドルフ・ヒトラー五つの肖像』より[6]-(松沢呉一)

『我が闘争』を読んだ人はほとんどいなかった!—『アドルフ・ヒトラー五つの肖像』より[5]」の続きです。

 

 

 

では、「25カ条綱領」は読まなかったのか?

 

vivanon_sentenceグイド・クノップ著『アドルフ・ヒトラー五つの肖像』に書かれていることではないのですが、『我が闘争』を読んでいなかったのだとしても、1920年に制定された党の「25カ条綱領」に目を通せば、どれだけ危険な党かわかったはずです。でも、国民はわかろうとしませんでした。信じたかったからですし、信じたい人たちにとっては信じられる綱領になっていたからです。

では、「25カ条綱領」からピックアップしてみましょう。

以下はWikipediaより

 

 

1.我々は、民族の自決権を根拠として、全てのドイツ人の1つの大ドイツへの合同を要求する。

2.我々は、他国に対するドイツ民族の同権、ヴェルサイユ条約およびサン=ジェルマン条約の廃止を要求する。

 

 

これは条約を破棄して軍備を拡大し、オーストリアやズデーデン(チェコスロバキアのドイツ人居住地域)を併合することを意味してましょう。

 

 

3.我々は、我が民族を扶養し、過剰人口を移住させるための土地(植民地)を要求する。

 

 

これはポーランド、さらにはソ連も支配下に置くことを想定したものです。

 

 

4.民族同胞のみが国民たりうる。宗派にかかわらずドイツの血を引く者のみが民族同胞たりうる。ゆえにユダヤ人は民族同胞たりえない。

5.国民でない者は、ドイツにおいて来客としてのみ生活することができ、外国人法の適用を受けねばならない。

7.我々は、国家がまず第一に国民の生活手段に配慮することを約束することを要求する。国家の全人口を扶養することが不可能であれば、外国籍の者(ドイツ国民でない者)は国外へ退去させられる。

18.我々は、公共の利益を害する活動に対する容赦ない闘争を要求する。高利貸し、闇商人等の民族に対する犯罪者は、宗派や人種にかかわらず全て容赦なく処罰される。

 

 

これらからユダヤ排除、ジプシー排除を読み取れないほどドイツ人はバカではない。ホロコーストまでは予想できなかったとしても。

 

 

 Daffy The Commando (1943)より。戦中の米国アニメでは東条英機がチラッと出てくるものがありますが、特定個人が大きくクローズアップはされておらず、対してヒトラーは頻繁に登場。いじりやすいキャラって感じです。中でもこれはリアルなヒトラーです

 

 

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