夢見る男と女—ススキノで出会ったソープ嬢[下]-[ビバノン循環湯 504](松沢呉一)
「その日のうちにまた来て欲しいと言い出した—ススキノで出会ったソープ嬢[上]」の続きです。
路上で声をかけてきた男の話
ススキノで会ったソープ嬢とやたらと気が合ってしまい、その日のうちにもう一度会うことになり、さらに翌々日の日曜日の夜、札幌の案内をしてもらうことになった。
彼女は、「信用できそうな人だから教えるけど、店の人に言わないでね」と前置きして、日曜の昼間に会う相手のことを話し出した。
二週間前、彼女が道を歩いていると、横に車が横に止まった。窓が開いて、六十歳くらいの品のいい男が声をかけてきた。
「ちょっとよろしいですか。今、お時間ありますか?」
彼女は立ち止まった。どこをどう見ても、危険のなさそうな紳士であり、その口調からも、そのことが窺える。
「もし失礼じゃなかったら、しばらくおつき合い願えませんか」
彼女は車に乗り込んだ。
男は車を走らせながら、こんな話を切り出した。
「突然声をかけてすいませんでした。ここ二年ほど、つき合っている女性がいたんです。あちらも結婚していたんですが、互いのことは詮索しないという約束で、月に何度か会っていました。電話番号も互いに知らず、別れる前に必ず次の待ち合わせの日と時間と場所を決めて」
ドラマみたいな話である。
たまたま体調を崩したり、都合が悪くなったりして会えなくなったらそれまでだが、であるが故に、風邪をひいても彼女は必ず約束の場所に遅れず現れ、彼も同様にそうしたのだそうだ。
「ところが、先月会ったときに、彼女のご主人が転勤になることを聞かされ、彼女との関係はそれで最後となりました。それで、あなたが歩いているところをお見かけして、声をかけてしまったというわけです。不躾なお願いだとはわかっていますが、よろしかったら、私と今後会っていただけませんか。もし会いたくなくなったら、それ以降は一切会わなくてかまいません。もちろん私はこのことを口外しません」
これを聞いた彼女は、思わず「で、おいらくで」と口にした。
「その女性には一回一万五千円を払っていました。もしそれでよければ、如何でしょうか」
彼女はその申し出を受け入れて、その日はそのままホテルに行った。
ただただセックスをするだけの関係
ソープでのローテーションは二勤一休になっているので、次の予定を決める際に、いつが休みかをすぐに計算できず、予定が急に変わることもあるため、彼女は携帯電話の番号を教え、あちらから一方的に連絡をとる方式にした。
「もしそちらが会いたくなくなったら、はっきり言っていただいてかまいません」と男は言い、自分の電話番号を彼女に教えなかった。用心深いんである。
数日後、男から電話があって、二度目のデートをした。そして、次の日曜日が三度目のデートというわけだ。
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