なぜ名古屋はこうなのか—監禁されたヘルス嬢[5](最終回)-[ビバノン循環湯 510] (松沢呉一)
「トイチがトニに—-監禁されたヘルス嬢[4]」の続きです。
ホストにハマった前歴があると店が敬遠する理由
カリンはおっぱいパブを辞めて、名古屋のヘルスで働き出すのだが、このヘルスは私も知っている優良店。くれぐれも言っておくが、名古屋のヘルスのすべてが悪質なわけではない。ただ、大都市とは思えないくらい悪質な店の率が高いのである。
「店に出勤する時に、おさわりパブの店長に見つかっちゃったんですよ。喫茶店に連れ込まれて、免許証や現金をとられた。“月曜日に連絡するから、店に話し合いに来い”と言われたんだけど、連絡がなかったので、そのままほっといて、免許は紛失届けを出して再発行してもらった」
彼女もよくはわからないのだが、店長は本当のことを知らされておらず、彼女が借金を抱えたままトンズラしたと思いこんでいて、社長に報告したら、「警察にでもいかれたら、自分らの方がまずいので、そのままほっとけ」ということになったのかもしれない。
「その時に働いていた店にもこれまでの事情を全部話して相談したんですけど、“入店の時に、そんな事情があることを教えてくれなかったよね”って言われた。隠していたんじゃなくて、その時はもう解決したと思っていたから言わなかっただけなんだけど、“うちはそういうトラブルがある場合は入れない決まりがあるから、これ以上、揉めるんだったら、もう来てもらえない”って言われた」
冷たい。
こういう場合にどうするかは店次第、店長次第。この店長のように一切関わらない店も少なくないだろう。自分の店以外のところでのトラブル処理までやっていたら、体がいくつあっても足りないし、場合によっては店同士の対立にだってなりかねない。とくにA店とは揉めたくないだろう。
これは一般企業でも同じ。社員個人のトラブルについて、相談に乗ったり、弁護士を紹介したりするくらいの会社はあっても、一切関与しない会社も多いはずで、関与しないからと言って責められるべきではない。会社がプライバシーに介入しないのはむしろ正しい姿勢である(この場合、そのことを言わなかったことをもって彼女を責めるのもおかしいのだが)。
また、ホストにはまって借金を作るような女たちは、そう簡単には依存傾向から抜けられず、ほっとくと同じことを繰り返す。トラブルを抱えたのを避けるのは、過去のトラブル、今現在のトラブルを避けるだけでなく、今後のトラブルを避ける知恵でもある。
こういった女たちを食い物にする連中は、好んでこういうタイプを探し出すわけだが、「ホストクラブに通っている」「通っていた過去がある」というだけでも敬遠する店もある。名古屋ではそういうのが多すぎて、それだけで雇わないなんてことはないだろうが。
「でも、それ以降は何も言われなかったので、そのまましばらくそのお店で働きました」
現在はそこも辞めている。
※Asta with bird cage from Actress Exhibit series (W423)
何がなんだか、わからないまま
連絡のとりようがないということもあるんだろうが、監禁していたA店も、おさわりパブも、とくに動きはない。
結局のところ、おっぱいパブとA店の関係もわからないままだが、親や知人らに相談しにくい仕事であることをいいことに、どいつもこいつも彼女を利用しようとしていたことだけは間違いない。
彼女としては、このまま何もなければそれでよく、いまさら彼らに報復したいとは思っていない。仮にそうしたいと思っても難しそうだ。
親にぱれてしまっている以上、今からでも警察に訴え出てもいいのだが、証拠は何もなく、証言もとりにくい。打撲のあとらしきものはあるにせよ、診断書があるわけでもないため、監禁や暴行については警察も動けないだろう。
高額の利息については違法だろうし、女の子らの証言もとれる。借用書と帳簿を照らせばわかるだろうから、警察がこれをもって摘発することも可能性ではあろうが、果たしてこれで警察が動いてくれるかどうか。
「風俗店と警察が通じていることがあるので、警察も信用できないって、お客さんに言われた」とカリンは言う。
たしかに。愛知の警察じゃ警官に逆にストーキングされておしまいになりかねない(この頃、愛知ではこういう事件があった)。
警察が信用できないのは名古屋に限ったことではなくて、私が知っている範囲でもそういう例があるのだが、被害届を出そうとしたら、「そんな仕事をやっているからだ」と、被害者が責められることもある。
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