松沢呉一のビバノン・ライフ

「長いナイフの夜」はナチス内同性愛者派閥の一掃—ナチスと同性愛[7]-(松沢呉一)

そして、エルンスト・レームは殺された—ナチスと同性愛[6]」の続きです。

 

 

 

「長いナイフの夜」の内実はただの大量殺人

 

vivanon_sentence長いナイフの夜」には法的根拠がなく、ナチスによるただの大量殺人です。ヒトラーは粛清された側がクーデターを起こそうとしたため、鎮圧したというストリーでこれを正当化します。

殺された中にはナチスと無関係の人たちも入っているし、家族で殺されたのもいて、クーデターの鎮圧にしては範囲が広すぎましょう。

しかし、それを捜査し、取り締まれる存在がすでにない。憲法学者のカール・シュミットがヒトラーに続き、「正当防衛であった」と評して追認しました。もうムチャクチャ。

このムチャクチャが通ってしまって、国民の大多数もこれを支持しました。

この粛清にはいくつかの側面があります。ひとつはナチス内の「整理」です。この整理はヒトラーに次ぐ地位を争うヒムラーとゲーリングにとって邪魔な存在を消すということです。具体的にはレーム以下、厄介者になっていた突撃隊の整理です。

レームは大胆なことにヒトラーの弱腰を批判してもいましたから、ヒトラーの腰巾着が多いナチス内にもレームをよく思わない者たちが多くいましたし、前回見たように国軍とも対立関係にありました。

ヒトラーは国軍の顔を立てて、レームの要求を拒否し、その増長を抑えてきましたが、何ぶんにも突撃隊は、この時点では隊員400万人を超える巨大な組織になっていて、対する国軍は、ヴェルサイユ条約の制限を受けて10万人に留まっており、再軍備を図るには突撃隊をうまく使いたい。

それに対して突撃隊の上層部を潰すことで国軍の離反を食い止めることがゲーリングらの考えです。突撃隊は兵隊は多くても、正規の訓練を受けておらず、統率もとれていない民兵であり、この先、徴兵制を導入して軍備を強化することを考えていたナチスとしては、突撃隊の存在は邪魔になってきます。

Wikipediaよりレームと突撃隊。レームの横の横はゲーリング

 

 

グレゴール・シュトラッサーとオットー・シュトラッサー兄弟の命運

 

vivanon_sentence突撃隊とは別の流れとして、ナチス内で大きな力をもっていたのがグレゴール・シュトラッサー(Gregor Strasser)です。彼も初期からのナチスの党員であり、ミュンヘン一揆にも参加して投獄されています。

彼は突撃隊出身ではありますが、弟のオットー・シュトラッサー、ヨーゼフ・ゲッベルスらととともにナチス内左派勢力を率い、ヒトラーに次ぐナンバー2の座にあると目されていた実力者であり、レーム同様、ヒトラーに忌憚なく意見を言える数少ない人物でした。

ゲッベルスはヒトラーの腰巾着となり、1930年、オットーはヒトラーやゲッペルスに反発して離党し、同様にナチスを離脱した者たちと、新しい団体「黒色戦線」(die Schwarze Front)を結成してナチスに対峙、ナチス内部にも支持者を増やしていきます。

黒は親衛隊のシンボルカラーですが、ナチス批判の側がその意味で黒を使うはずもなく、はっきりとはわからないのですが、反ナチス、反共産主義、反ファシズムを掲げているところから、この黒色はアナキズムの黒色なのかも。まったく意識していないとは思いにくい(しかし、オットー・シュトラッサー支持のネオナチというのもいるようで、よくわからん)。

この影響でグレゴール・シュトラッサーも党内の立場を悪くし、また、事故で休養を強いられる間に影響力を落とし、1932年、ヒトラーと対立して、役職を辞任。

このグレゴール・シュトラッサーも「長いナイフの夜」で銃殺されています。ナチス内左派終焉です。

弟のオットーは、ナチス政権樹立とともに身の危険を感じていち早くチェコに逃亡していて、そこで反ナチス、反ヒトラーのレジスタンス活動をやり、ゲシュタポに追われながらも戦後まで生き続けました。これもまた親ナチスは反ナチスと紙一重って例です。

レーム一派、シュトラッサー一派が粛清され、それまで幅のあったナチスはナチス内批判派を失います。初期からナチスに関わり、ミュンヘン一揆にも参加して、自殺しようとしたヒトラーを止めたエルンスト・ハンフシュテングル(Ernst Franz Sedgwick Hanfstaengl)のように、ヒトラー批判をしつつも、「長いナイフの夜」以降もナチスに留まった例もありますが(1937年米国に亡命)、抑止する勢力がおおむね消えたことがナチスの先鋭化を進めたと言えそうです。

Wikipediaよりグレゴール・シュトラッサー

 

 

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