厚労省・武田康祐課長は懲戒免職が妥当—懲戒の基準[16]-(松沢呉一)
「ラッシュごときで懲戒免職になるのは不当—懲戒の基準[15]」の続きです。
どういう懲戒になるかを検討する
この事件なんですけどね。
こういう時は人事院の「懲戒処分の指針」に照らして判断するとよい。と思ったら、消えているぞ。これを知られるとまずいと思ったんかな。
いざという時に慌てて調べる人たちが多いわけですが、私はこつこつ調べてありますので、「ビバノン」に転載した公務外の非違行為を見ると、該当するのは以下。
(4) 暴行・けんか暴行を加え、又はけんかをした職員が人を傷害するに至らなかったときは、減給又は戒告とする。(11) 酩酊による粗野な言動等酩酊して、公共の場所や乗物において、公衆に迷惑をかけるような著しく粗野又は乱暴な言動をした職員は、減給又は戒告とする。
基本的な考え方として、懲戒処分は足し算なので、このふたつを合わせて、停職または減給が適当かと思われます。動画を観るとパンチは当たってないかもしれないですが、蹴りは当たっているので、職員が診断書をとっていれば打撲等で傷害になるかもしれない。だったら1ランク上がって「停職または減給」。
その上、この2日前にも同様の行為があったと報じられていますから、これが事実であれば、繰り返されたことによって「免職または停職」が適切であり、傷害に至っていればこの段階でもう免職が確定。
2019年3月27日付「朝日新聞デジタル」より
海外に行く際に必要な上司の承認を得ていなかったことは「厚生労働省の職員が国の用務以外の目的で海外に渡航する場合の取扱いに関する訓令の一部を改正する訓令」の違反です。そこまで管理されなければならないのか否かについては疑問がありますが、現にそういう決まりになっています。これがどの程度の重みになるのか私は判断できないですが、明確に義務づけられた規定に対する違反ですから、懲戒処分になったケースがすでにあるようです。だったらこれもブラス。
さらにその内容と行為者の立場(「役付か否か」等)が加味されて、基準以上の処分がなされることまでを人事院は定めています。
この件は公務員の倫理に抵触する話ですから、厚労省の信用を傷つけたかどうかは二次的にしか考慮されないのだろうと思いますが、二次的であれ、結果として厚労省の信用を落としていて、それをも考慮すると免職しか選択肢がない。
更迭は懲戒処分ではないので、改めて懲戒処分はなされるはずです。懲戒処分は拙速にやるべきことではないので、本人の言い分を聞き、韓国の刑事手続きの推移を見た上で免職になるのが妥当であり、事実、厚労省はそうコメントしています。注視していましょう。
私的領域での懲戒は軽くていいと考える私も、これだけ条件が揃うと、戒告、減給程度で済ませていいとは思えません。地方公務員の例ですが、ラッシュで懲戒免職になるのが公務員のルールらしいですよ。なのに、今回のことで免職にならないのはおかしいでしょう。
ヘイトスピーチと懲戒
この件に関して、ヘイトスピーチという切口で批判している人たちもいます。Facebookのアカウントはすでに消えていますし(今残っている同名のアカウントは偽アカでしょう)、I hate Koreaというだけでヘイトスピーチとも思わないですが、どちらにせよ、懲戒においてはそこはどうでもいい。
懲戒処分の規定において、ヘイトスピーチそれ自体が懲戒の対象になる基準はどこにもないかと思いますから、懲戒においてそこの判断は重要ではありません。現状ではヘイトスピーチが「酩酊による粗野な言動」に該当する場合に処分されることがあるだけかと思われます。ヘイトスピーチとして批判することはいいとして、「ヘイトスピーチだ、懲戒にしろ」という要求は筋が悪い。
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