松沢呉一のビバノン・ライフ

ラッシュごときで懲戒免職になるのは不当—懲戒の基準[15]-(松沢呉一)

ピエール瀧逮捕を契機に考える「制裁欲に駆られる人々の害」—懲戒の基準[14]」の続きです。

 

 

 

法より懲戒が重いのはまずい

 

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大麻取締法は、営利目的での販売や輸入は懲役七年以下、個人使用の目的でも所持や譲受は五年以下です。そこだけを見ると重い犯罪であり、公務員が捕まった場合、懲戒免職(解雇)が妥当にも思えてしまいますが、そもそも体への害も常習性もほとんどなく、国によっては医療目的で使用され、その範囲を制限せず、合法の地域も増えているにもかかわらず、日本ではこんな罰則になっていること自体が不当です。

しかし、どこかのパーティに行ってマリファナが回ってきて吸っただけなら、大麻取締法で処罰されることはありませんし、所持していたところで、販売目的でなく、自身の使用のためであり、常習でもない初犯であれば、また、反省したふりをしておけば不起訴になることが多く、書類送検されたところで実刑判決が出ることは稀です。

その結果、しばしば法より懲戒処分の方が重いことになってしまっています。

この重さは非違行為の基準、懲戒処分の基準に、幅と段階的手続きがないことにもよります。すでに確認したように、人事院の非違行為の基準が「麻薬、大麻、あへん、覚醒剤、危険ドラッグ等の所持、使用、譲渡等をした職員は、免職とする」とすべて一律で免職になっているのはアバウトすぎるでしょ。実刑判決を受けるような例と、書類送検もされなかったような例と同じ扱いなのは無理があります。

法律では大麻であれば使用、単純所持、営利目的の所持、販売、栽培は罰則が違いますし、法律上の処罰がなされるためには警察の取り調べがありぃの、書類送検がありぃの、検察の取り調べがありぃの、起訴がありぃの、という手続きがあって、その段階ごとに、判決までに至る必要がない人ははじかれるのに、公務員では一律免職。

法に基づく処罰より、懲戒の方が重くて怖い。民間であれば、こうも業務外の非違行為の範囲が広く定められていることは少なくて、定めらていても無効でしょうけど、国家公務員ではこうなっていて、地方公務員でもこれをなぞっていることが多い。

現実に大麻所持で逮捕されても解雇にならなかった会社員は、私の知っている範囲でも2名おります。それでいいんじゃないですかね。公務員が厳しすぎるのです。

 

 

ラッシュごときで懲戒免職になる現実

 

vivanon_sentence昨年9月に、新宿二丁目Dragon Menであった「ラッシュをめぐる最前線」というイベントは、そういった「法の基準」「懲戒の基準」の理不尽さがテーマだったとも言えます。

これに出演していた人物は地方公務員だったのですが、ラッシュで免職となっており、裁判で闘っています。この裁判は、ラッシュが、医薬品医療機器等法改正による指定薬物制度によって、指定薬物として規制されたことは不当として無罪を主張するものであり、職場とも係争中です。

ラッシュは今なお米国を筆頭に合法的に販売されている国がいくらでもあって、日本でもその辺にナンボでも売られていました。タバコのような身体への害もなく、酒のような酩酊状態になることもなく、コーヒーほどの常習性もないラッシュで懲役刑(懲役3年以下)になり得ること自体が重すぎます。

仮に指定薬物にするとしても、懲役は必要がないでしょう。罰金で十分。これは法律が「指定薬物」を一律に扱っていることの問題です。たとえば道交法違反を一律に扱って、飲酒運転で赤信号を無視するのと、車が来ないので赤信号を無視して道路を渡るのを同じ罰則にするようなものです。

その上に、失職は厳しすぎると思います。仕事中にやっていたら懲戒でもいいとして、「プライベートの時間であれば戒告で十分。繰り返されたら減給。それ以上はなし」くらいが妥当でしょう。

しかし、ひとたび法律で決められてしまうと、ここまで至ってしまいますし、ひとたび法律ができると、発想がそこに縛られてしまう人が出てきます。「法律で決まっているのだから」と。ユダヤ人を強制収容することが決まると、勇んでゲシュタポに通報するタイプの人たちです。その法の是非を考えられないわけです。

詳しくは「ラッシュ(RUSH)の規制を考える会」のサイトを御覧下さい。


 

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