松沢呉一のビバノン・ライフ

タトゥは消しゴムで消せる—ある美術モデルの体験[ビバノン循環湯 525] -(松沢呉一)

京都造形大学を訴えた原告の事情が私は本当にわかりません。つい先日もそういう話になって、「傷ついた自分を理解されたいのだろう」という意見が女子から出ていたのですが、理解する人って決して多くはないでしょう。数は少なくてもいいのかもしれないですが、反発する人の方がずっと多いことくらい想像できますから、普通はどこの誰かわからなくするってもんじゃなかろうか。

なにより美術モデルの仕事が減りましょうから、訴訟に勝てたとしてもつり合わないと思うんですよね。支援の意味で依頼したり、面白がって依頼する人もいるのでしょうけど、敬遠する人の方が多いと思います。私が大学の教員や画家だったら、「彼女は外してくれ」ってモデル事務所に依頼します。「大学を訴えるなんてけしからん」というのではなく、話が通じそうにないじゃないですか。

女生徒たちの前で全裸に—美術モデル体験記 [3]」に書いたように、美術モデルには話しかけないという暗黙のルールがあるため、会話が盛り上がらなくても問題はないのですが、思いもよらないところでクレームをつけてくるかもしれない。画家によっては完成した絵を出す展覧会にモデルを招待するようですけど、それを見て「苦痛です。退廃芸術です。破棄してください」と言われても困りますし、破棄を断って訴えられても困ります。

いかに大学側のガイドラインに問題があったにせよ、自身で事前に募集案内を読み、講師について調べ、それでもわからないことがあったら問い合わせをし、いざ講義が始まってから納得できなければ教室を出るなりして対策をとればいいのにしなかったことを棚に上げて訴えること自体、理解不能ですから、どういうことでクレームをつけてくるのか想像もつきません。

実際、今回の原稿を読んでいただければわかるように、美術モデルは指名ができて、「彼女はNGで」という形で呼ばないこともできます。訴訟を起こしたのは、仕事以上に得たいものがあるってことなのでしょうから、好きにすればいいですけど、近寄りたくはない。

この文章はどこに書いたのかさっぱり記憶にありません。この短さからしてネットかなあ。この美術モデルが誰だったのかも全然記憶にない。

一般に役に立つ話ではないので、タトゥを消したい人は読まない方がいいです。

 

 

タトゥは消しゴムで消せる

 

vivanon_sentence知り合いで美術モデルをやっているのがいる。順調に仕事をこなしていたのだが、脚にタトゥを入れた途端に仕事が減ってしまった。美術モデルは顔やスタイルが悪くてもいい、歳をとっていてもいいと聞いていたが、タトゥはダメなのか。

多くの場合、美術モデルは普遍的な身体を求められていて、個性的身体の表示であるタトゥは不要ってことなんだろう。

「たぶんそういうことなんでしょう。タトゥを入れて以降も、呼んでくれることはあるんですけど、はっきり数が減りましたね」

「そこにあるものをそのまま正確に描く」ということになっているデッサンにおいては、弁天様や龍が描かれていると、そのまま写し取ることになって、相当に面倒。「龍のヒゲが何本あるか、鯉のウロコがいくつあるか数えられねえ」みたいな。彼女のタトゥは和彫りじゃないけれど。

頭の中でタトゥをなかったことにすればいいのだが、筋肉がどうついているのかがタトゥで見えにくくなってしまう。

 

 

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