松沢呉一のビバノン・ライフ

ナチスとトゥーレ協会の関係—ナチスはどこから何をパクったのか[2]-(松沢呉一)

ナチス式敬礼はムッソリーニが先?—ナチスはどこから何をパクったのか[1]」の続きです。

 

 

 

トゥーレ協会とディートリッヒ・エッカート

 

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とくに反ユダヤの考え方をヒトラーに徹底的に吹き込んだのはコピー版「ドイツ労働者党」の幹部だったディートリッヒ・エッカート(Dietrich Eckart)っぽい。エッカートがヒトラーを上流階級の人々に紹介した重要人物であったことは「ヘレーネ・ベヒシュタインとヘンリエッテ・フォン・シーラッハ—ヒトラーを援助した女とヒトラーに抗議した女」で見た通り。

エッカートのナチスへの貢献はそれだけではなくて、ヒトラーを発掘して育てたと言ってもよく、初期ナチスでは最重要人物であり、ナチスとオカルティズムをつなぐ人物でもあります。

ディートリッヒ・エッカートは劇作家であり、トゥーレ協会(Thule-Gesellschaft)のメンパーでもありました。

トゥーレ協会はドイツ労働者党の母体となったオカルティズムの秘密結社です。1918年にルドルフ・フォン・ゼボッテンドルフ(Rudolf von Sebottendorf)によって結成されているのですが、この人物は相当に怪しい。

1908年に詐偽で捕まっており、ルドルフ・フォン・ゼボッテンドルフという名前も、貴族風に見せかけるための偽名であり(本人はゼボッテンドルフ家から正式に認められたと主張しているのですが、法的根拠はないらしい)、本名はアダム・アルフレッド・ルドルフ・グラウアー(Adam Alfred Rudolf Glauer)。

なお、グイド・フォン・リストも偽名(ペンネーム)で、本名はグイド・カール・アントン・リスト(Guido Karl Anton List)このフォンも偽爵位のよう。また、アドルフ・ヨーゼフ・ランツもランツ・フォン・リーベンフェルス(Lanz von Liebenfels)という名前を持っていて、これも偽爵位。こういう人たちはハッタリが大好き、権威が大好きです。私も松沢フォン呉一と名乗ろうかな。

以下、ゼボッテンドルフはグラウアーで統一します。

第一次世界大戦後、グラウアーは、秘密結社「ドイツ騎士団」(Germanenorden)のメンバーとなります。このドイツ騎士団は、公然団体「帝国ハンマー同盟」(Reichshammerbund)の地下組織です。「帝国ハンマー同盟」は、「偽書の手法を取り込んだナチス—ヘンリー・フォードとナチス[3]」に出てきた作家にして出版人であるテオドール・フリッチュ(Theodor Fritsch)が1912年に創立した団体であり、反ユダヤの雑誌「ハンマー」(Der Hammer)を発行。

この帝国ハンマー同盟はハーケンクロイツを使用しています(上の図版)。そういえばナチスはハンマーもよく図像で使っています。

 

 

帝国ハンマー同盟→ドイツ騎士団→トゥーレ協会→ドイツ労働党→ナチス

 

vivanon_sentence帝国ハンマー同盟の下部組織である「ドイツ騎士団」はふたつに分かれ、そのひとつがグラウアーに引き継がれ、トゥーレ協会となります。こういう流れですから、この団体も当然アーリア民族至上主義であり、反ユダヤです。トゥーレはアーリア人の起源とされる伝説上の島の名前。トゥーレ協会のマークはハーケンクロイツのアレンジです(下の図版)。

 

 

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