松沢呉一のビバノン・ライフ

ショル兄妹の人気の秘訣—バラの色は白だけではない[8]-(松沢呉一)

忘れられた死者たち—バラの色は白だけではない[7]」の続きです。

 

 

 

ショル兄妹は世論調査でアイドルの27位

 

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片っ端から白バラ関連の記事を読んでいるのですが、2003年のドイツの世論調査で、ショル兄妹が、人気のあるドイツ人の4位に選ばれたという記述が出ているのを3度も見ました。どんだけ白バラの記事に目を通してんだってことですけど、どれも英文の記事だったと思います。

半分疑いつつ、詳細を知りたいと思ってドイツ語で検索しましたさ。これは完全な間違いでした。おそらく誰かが言い出して、そのままコピーされているのだと思われます。どこの国でもあることです。

正確には2003年のドイツの世論調査で、「あなたのアイドルは誰ですか」と聞いたら、27位にショル兄妹が選ばれています。日本だと、歌手やら俳優やらのタレントばかりになってしまいそうですが、この場合の「アイドル」は「尊敬できる人」「自分の生き方の手本になる人」といったところです。

「国外の人を除き、政治家と宗教家も除き、生きている人も除き、親族など個人的関係も除く」といった条件をつければ4位になるかもしれないですが、相当の無理をしないとそうはならない。

10位のイエス・キリスト、17位のマルティン・ルターには負けてますが、それでもショル兄妹はいいところに位置しています。ビートルズ(36位)より上ですから。

ちなみにドイツらしいミュージシャンとしてはNENAが下の方に入ってます。一発屋ではありますが、「99 Luftballons」は反戦歌の定番になり、あの数年後にはベルリンの壁が崩壊して、その記憶とあいまって、ドイツ人にとっては歴史的な曲になっているのです。知らんけど、たぶんそんな感じ。

12位にダライラマが入ってます。キリスト教以外の宗教も強い。ダライラマの場合は宗教家の評価とはまた少し違うのでしょうけど。

13位がオスカー・シンドラーです。「シンドラーのリスト」の影響が大きそうです。

15位がアンネ・フランクです。これは不動。反ユダヤのマルティン・ルターより上。

 

 

グラーフ・フォン・シュタウフェンベルクって誰だよ

 

vivanon_sentenceここまでは理解できるとして、注目すべきは10位のGraf von Stauffenbergです。これはクラウス・フォン・シュタウフェンベルクのことかと思います。フルネームはクラウス・フィリップ・マリア・シェンク・グラーフ・フォン・シュタウフェンベルク(Claus Philipp Maria Schenk Graf von Stauffenberg)です。ドイツ人、名前がなげえよ。

クリスチャン・ネームが入ったり、親の名前が入ったりするためですが、とくに貴族階級は自分の身分を表示するので、長くなります。この場合のGrafは伯爵の意味で、Graf von Stauffenbergは、シュタウフェンベルク伯爵ってことです。一般的にはそう呼ばれているのですね。

この人のことを知っている日本人はそんなにはいないでしょう。私も知ったのは今年になってからです。

クラウス・フォン・シュタウフェンベルクは、国軍内反ヒトラー勢力の一人です。ナチスの反ユダヤ主義に疑義を抱き、「水晶の夜」ではっきり反ヒトラーになり、1944年7月20日の暗殺計画に関与(実行犯)したことよって処刑されてます。同じく処刑されたヘルムート・フォン・モルトケの方が人気があるのかと思ってましたが、モルトケはこの投票には入ってません。

この2人はドイツの英雄とされているのですが、シュタウフェンベルクはショル兄妹よりずっと人気があるのか。これは意外でした。

国軍内の反ナチス勢力は、軍隊ということで評価されにくいと書かれているものがあって、たぶんこれに該当するのは平和運動をやっているような人たちのことであって、一般的には関係ないんでしょう。「どうせ処刑されるリスクを負うんだったら、ビラや落書きより、ヒトラーを暗殺した方が早くね?」ってことですわ。そりゃそうなんですけど、それも簡単ではなくて、タイミングや根回しってもんがあって、その上、暗殺計画は失敗しました。

下の方ですが、暗殺計画グループの神学者ディートリヒ・ボンヘッファーも入ってます。これは神学者としての評価が加わってましょう。

Wikipediaよりクラウス・フォン・シュタウフェンベルク

 

 

ショル兄妹が愛され続けている仕掛け

 

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アルベルト・シュヴァイツァーはドイツ人なのかフランス人なのか微妙ですが(生まれた時はドイツ領、その後はフランス領)、ドイツ人だとすると、ドイツ人のトップは6位のシュヴァイツァー。次は9位のアインシュタインです。ナチスのせいで逃げられてやんの。

ナチスを嫌って亡命した人やナチスに処刑された人、ナチスに強制収容所に送られた人、ナチスに反してユダヤ人を助けた人たちがいっぱい入っています。ナチスとは反対側の人たちですが、ドイツにおいては今もナチスの影響が大きいってことです。

 

 

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