松沢呉一のビバノン・ライフ

ハンス・ショルはピンクのバラだった?—バラの色は白だけではない[12]-(松沢呉一)

独シュピーゲル誌の捏造記事問題と白バラのつながり—バラの色は白だけではない[11]」の続きです。

 

 

白バラの重要なメンバーだったトラウテ・ラフレンツ

 

vivanon_sentence「シュピーゲル」で問題になっている記事のひとつは、トラウテ・ラフレンツ(Traute Lafrenz)のインタビューでした。ハンスとゾフィーの妹であるエリザペートはまだ生きていますが、直接白バラに関わった人では最後の1人だと思います。

忘れられた死者たち—バラの色は白だけではない[7]」で、人智学の信奉者として名前が出てきましたが、彼女は処刑された6人の次に重要な集団の一人です。あるいは同等かもしれないし、処刑されたクリストフ・プロープストに比べると、より積極的かもしれない。

ゾフィー・ショルは裁判で「白バラ通信」を最初に知ったのは、彼女に見せられたからだと言ってます。そんなことを言ったらトラウテ・ラフレンツが逮捕されてしまいます。実際逮捕されています。

インゲ・ショル著『白バラは散らず』では、私が気づいただけで彼女は二度登場していると思われますが(一度はハンブルグにビラを持ち込んだ人物として、一度はハンスとゾフィーが処刑された直後に連絡をしてきた人物として)、いずれも名前が伏せられて、ただの「女子大生」になっており、戦後はアメリカに渡って、長らくこれについての発言をしてこなかったので、彼女を白バラのメンバーとして認知している人はドイツでも決して多くはないと思います。

彼女はリヒトヴァルク学校(Lichtwarkschule)の出身です。これはまた別立てのシリーズで詳しく見ていきますが、ハンブルクにあった学校で、学校全体が反ナチス。そのため、ナチスに潰されています。ここの生徒たちが、抵抗運動の中でリヒトヴァルク同窓生という一群を作り出します。

ラフレンツはハンブルク大学に進み、ここでアレクサンダー・シュモレルと知り合ってます。ハンス・ショルより前からのシュモレルの友人です。そのあとシュモレルはミュンヘン大に移ってハンス・ショルと知り合い、追ってラフレンツがミュンヘン大に移り、シュモレルに紹介されてハンスと知り合っています。

ハンスとゾフィーが1943年2月18日にビラを大学で配布することは知らずにいて、たまたまその日、ラフレンツは講義を終えて教室から出た時に、ハンスとゾフィーと出くわして会話を交わしており、その直後にハンスとゾフィーは逮捕されました。彼女は親族以外で唯一ハンスとゾフィーの葬儀にも出席。ゲシュタポに関係の深さはバレバレ。

 

 

裁判官が女に甘かったためにギリギリ生き延びた

 

vivanon_sentence白バラのビラは複数のルートでハンブルクに持ち込まれているのですが、最初に持ち込んだのが彼女です。

同じようにハンブルクにビラを持ち込んだハンス・ライペルト(Hans Conrad Leipelt)というミュンヘン大の男子学生は1945年になって処刑されています。彼が処刑されたのはユダヤ系だったことも関係していそうで、彼が捕まったあと、母親と妹も逮捕され、母親は取り調べ中に死亡しています。ハンス・ライペルトは化学を専攻していて、母親のカタリーナ・ライペルト(Katharina Leipelt)も化学者でした。

彼は直接白バラに関わったのではなく、ショル兄妹らとは面識はなかったようです。入手したビラをハンブルクに持ち込んで複製、配布をしており、関係性の強さで言うと、トラウテ・ラフレンツは同等の刑、つまり処刑されていてもおかしくなかったのですが、彼女は報告義務違反で懲役1年で済んでいます。ナチスの時代はこういった物件を見た時はゲシュタポに届ける義務があって、それをしなかったことが問われただけです。

トラウテ・ラフレンツ自身、このインタビューで指摘していますが、裁判で懲役1年で済んだのは女だからだと思われます。裁判官が、というよりドイツ社会全体が、でしょうけど、女には甘い。同じことをやった男は懲役刑になり、女は無罪になったりしています。

なんとなくバイアスがかかってそうなっていたのではなく、裁判長のローラント・フライスラー(Roland Freisler)は判決でしばしばはっきり女を理由に放免したり、軽い刑で済ませています。

しかし、懲役を終えてから、ハンブルク・グループに関与した容疑でトラウテ・ラフレンツは再逮捕され、判決の前に米軍に解放されています。ギリギリ生き残った人物です。生き残った白バラのメンバーはたいていギリギリですが。

Hans Conrad Leipelt

 

 

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