松沢呉一のビバノン・ライフ

性風俗業界の指名手配—世界はつながっている[上]-[ビバノン循環湯 533](松沢呉一)

風俗雑誌「Ping」の連載に書いたもの

 

 

風俗業界の指名手配

 

vivanon_sentenceパソコンに向かってチンコだマンコだと原稿を書いていたら、知り合いのヘルス従業員からこんな電話があった。

「××って店を知ってますか」

人気性感店である。

「知ってるよ。何度か取材したことあるよ」

「あの店の店長の顔はわかります?」

「取材の時に会っているから、顔を見ればわかると思うよ」

「もしどこかで見かけたら、僕に連絡をください」

なにかと思ったら、店長が金を持ち逃げしたそうだ。

「ギャンブルなのかなんなのか知らないんですけど、借金がすごかったらしいんですよ。トイチにも手を出していて、店にまで催促が来るようになって、それで飛んだみたいです。オーナーが怒って、探しています。僕は直接店長を知らないんですけど、オーナーと知り合いなので、見つければ懸賞金が出るんです」

懸賞金つきなんて、アメリカ西部開拓時代みたい。そんな昔に遡らなくても、指名手配犯の情報を提供すれば今だって金が出るか。

こういう場合、許可店であれば警察に届けることもあるが、許可店であっても警察と接点を持ちたくないとか、売り上げがバレたくないという気持ちが働いて(警察に売り上げがバレたところで税務署に通告されるわけではないんだが)、届けない店は多いし、まして無許可店では届けるわけにはいかない。届けたところで、警察が真剣に捜査してくれるわけもなかろう。そこで自力で探し出そうとするのである。

見つけてどうするか知らないけれど、東京湾に埋めたってなんの得にもならないので、ともあれ怒鳴りつけたいのであろう。性風俗業界は恩情のある人も多いので、場合によっては事情を聞いて借金を肩代わりして、10年くらいただ働きさせるってパターンもありそうだ。

 

国内の指名手配写真は生々しすぎるかと思ってFBIのページを見たら、2015年の妻殺し事件の容疑者が指名手配になってました。いいヤツっぽい。2017年に指名手配になり、まだ捕まってないみたい。賞金は最大10万ドルですぜ。

 

 

複数の店に出入りする人たちの出番

 

vivanon_sentence常識的に考えるなら、金を持ち逃げしたら、そう簡単に見つかるようなところに出没しないものだが、風俗店関係者はこういう場合でも再度風俗店で働くことが多い。この業界に長いと、他業種への転身が難しくなるからだし、この世界にはこの世界のノウハウってものがあって、業種の違い、店の違いはあれども、少しは役に立つ。十年この業界で働いた人だと、次も性風俗業界で働く率は相当に高いと言えよう。

同じ地域の同じ業種ならともかくとして、系列じゃなければ、店同士の横のつながりはそれほどないので、ヘルスからソープに移ったり、ピンサロからホテトルに移ったり、都内から東京近郊の街に移るだけで、案外わからないものだったりする。

こういう場合、あっちゃこっちゃの地域の多種多様な業種に出入りしているライターや雑誌の広告営業が「指名手配犯人」を探すには適しているわけだ。

 

 

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