松沢呉一のビバノン・ライフ

天網恢恢疎にして漏らさず—世界はつながっている[下]-[ビバノン循環湯 534](松沢呉一)

性風俗業界の指名手配—世界はつながっている[上]」の続きです。

 

 

 

情報はクンニとともに駆け抜ける

 

vivanon_sentenceたっぷりクンニをして、Hちゃんはイクーッと声を挙げ、それからゆっくり話を続けた。店を移ってもやっていることはどこでも一緒。

彼女は店を移った事情を教えてくれた。HちゃんはA店を気に入っていると思っていたのに、その実、不満が生じていた。

「松沢さんは社長をよく知っているから、言わないようにしていたんだけど、あの店、もうヤバいんだよ。客が入ってないから、女のコもどんどん辞めるしさ」

「言わなくてもわかっていたよ」

「だよね」

この店、出勤しているコが極端に少なくて、5部屋あるのに、空き部屋が多い。客が来ないので、出勤数を絞っているのだ。

「早番は私しか出ていなかったり、2人しか出てなかったりしたんだよ。夜でも5人出ることは少なかったよね。私とSとAと3人で客を回していたようなもんだからね」

SちゃんはHちゃんの友人。Aちゃんはこの店のナンバーワン。と言っても、毎日出勤しているのはこの3人くらいだったから、たいしたナンバーワンではない。

すでに気に入っているコを指名している客はいいとして、いろんな女のコがいることを期待して来る客がフリーで入ると「またこのコか」ということになってしまう。

「だから、最近はすげ替えをやっていたんだよ。もうとっくに辞めたコを指名してくる客も呼んじゃうから、その度に“満里奈でーす”とかってウソ言って、お客さんが“あれ、違うよね”と言うと、“前の満里奈ちゃんは辞めて、私が満里奈です”って言ったり、あくまでシラを切ったり、ヒヤヒヤだったよ。そういう話がインターネットでも書かれていて、客はどんどん来なくなるしさ」

流行らない店の末路である。

「この店、ヤバいと思いながらも、人数が少ない分、フリーがどんどん回ってくるから稼げたんだよね。6万は確実に持って帰れた。でも、ついに一昨日、ギャラをもらえなかったんだよ。あの店、借金だからけだから、どうしても先に支払わなくちゃいけないのがあったいみたいで、“一日待ってくれ”と言われて、その日のうちにSと速攻でこの店に来て面接してもらって、昨日から一緒に働いている。あの店の人たちは好きだったけど、ギャラの未払いはヤバいでしょ」

たしかに。女のコがいなくなってしまったらおしまいなので、家賃を滞納しても、従業員のギャラを滞納しても、雑誌の広告費を滞納しても、女のコのギャラにだけは手をつけないものだ。そこまで追いつめられたとなれば、潰れるのは間もなくである。ここで1日2日の未払いが惜しくて我慢すると、さらに未払いが溜まって、いよいよ離れられなくなる。すぐに辞めたのは正解だ。

「スタッフがかわいそうだけど、しょうがないよね」

「社長はまた新規オープンしてやり直すから安心してくれって言ってたけど、もうお金だって借りられないと思うんだよ。昨日も今日もケータイに電話が入っているけど、もう電話も出てない」

この状態で、HちゃんとSちゃんが辞めたのではいよいよ潰れるのは早まった。さぞかし社長は慌てているだろう。

 

超大物。破格の賞金2,000万ドル。メキシコの麻薬カルテルのリーダーで、ジャーナリストと学生の殺害を命じたとしてメキシコで逮捕され、懲役刑に。米国は麻薬取引についてメキシコでは罪に問われなかったことを米国は不服としているようだが、メキシコ政府はキンテーロの身柄引き渡しを拒否。これはメキシコ政府が正しいのでは?

 

 

時にはビルのオーナーも情報源に

 

vivanon_sentence実はこの店がヤバいという話をすでに私はつかんでいた。Eちゃんからの情報である。

Rちゃんというコがいて、EちゃんがいるU店の看板娘だったのだが、数ヶ月前にA店に移ってきていた。ところが、わずかな間に元のU店に戻った。そりゃ、前の店は客が入っていて、彼女はその中でもトップクラスの人気があったから、稼ぎが全然違っただろう。U店としてもRちゃんはいて欲しい人材であり、「ほら見たことか」というので、Rちゃんの出戻りを許したというわけだ。

「えっ、Rちゃん、辞めていたんだ。Rちゃんが来てくれたから、一度は客が増えたんだけど、そういえば最近出てなかったもんね。どうしたのかとは思っていたんだけど、社長はそんなこと教えてくれてなかったからさ」とHちゃん。

ヘンな情報を女のコに教えて、社長に怒られるのもイヤなんで、これまで私はHちゃんには黙っていたのだ。互いによく知っているがゆえに話せないこともあるってものだ。

「ねえねえ、あのコはどうした? H2ちゃんっていたじゃないか」

「ああ、私はあのコはよく知らない。最近出てなかったよ。辞めたんじゃないかな」

私はこのコとも何度か会っていたので、うちに帰って、H2ちゃんにメールを入れた。

「ちょっと小耳に挟んだんだけど、A店はもうヤバいみたいだね」

すぐに返事があった。

「1ヶ月くらい前に私は辞めましたよ。今はキャバにいます。私は親バレをして辞めたんだけど、やっぱりそうでしたか。私もあの店はそろそろおしまいだと思ってました。家賃を滞納しているから、あのビルのオーナーが困っているって聞いていたんですよ」

 

 

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