松沢呉一のビバノン・ライフ

ペンキ絵がある銭湯は東京の銭湯の2割程度-[銭湯百景 5]-(松沢呉一)

遅ればせながら銭湯とパクリ職人の話-[銭湯百景 4]」の続きです。

 

 

 

ペンキ職人がいなくなったのは時代の必然

 

vivanon_sentence銭湯は毎年確実に減っています。ここ数年で言えば毎年20軒から30軒程度が東京都から消えてます。現在500軒台しか残っていない。

富士山のペンキ絵が残っているような木造銭湯から潰れていくのが現実です。描き替えたばかりのきれいなペンキ絵の銭湯もありますが、何軒か見て回ればなぜ潰れるのかわかります。景気のいい時代は2年3年で書き替えていたのが、今は5年も6年もそのまんまです。カビが生え、ペンキが剥げて、薄汚い。描き替える金がないのです。

職人がいなくなっているから銭湯が減っているわけではなく、銭湯が減り、とくにペンキ絵の銭湯が減っているから職人がいなくなっているだけのことです。銭湯絵を描く人が増えたところで銭湯維持にはなんら貢献しません。むしろそんなところにこだわるから先細りになってしまう。

もともと「銭湯絵師」なんて職業があったわけではなくて、昔はいたるところに映画や店舗の宣伝用の看板絵を描く名もなきペンキ職人がいて、その人たちが銭湯の絵も手がけていたのが、看板はプリントでできるようになったために消えただけのことで、銭湯では辛うじてではあれ、その需要が生き延びているに過ぎません。

銭湯のペンキ絵は景気がよかった時代に成立していた装飾であって、儲からなくなった時代には、客を遠ざけかねない。だったらタイルにしてホースで湯をかけて洗い流せたり、モップでこすれるようにした方がよく、リニューアルの際にそうする銭湯が多いわけですが、リニューアルする体力のない銭湯から潰れていく。

※上の写真はGoogleインドアビューより板橋区・志村の熊の湯。富士山のペンキ絵より、こういうタイル絵の方が行きたくなりません? 子どもも喜びます。

 

 

参考までに、全体にカビが生え、湿気で下地のベニヤ板が湾曲した例。浴槽の真横にこんな絵があって嬉しいか? これじゃあ客が離れますって。この銭湯も潰れました。もともと湿度の高い銭湯にペンキ絵は無理があって、短期の描き替えによって粗が出ないようにしてきたのが、もうごまかせなくなってきたってことです。

 

 

ペンキ絵が残っている銭湯は全体の2割程度

 

vivanon_sentence新宿区の銭湯は毎年着実に減っていて、現在22軒しか残ってません。今年も1軒消えましたし、もう1軒、たびたび休業している銭湯があって、あそこも危ない。つうか、3分の1はいつ潰れてもおかしくない状態でしょう。

22軒のうち、旧来のタイプの富士山のペンキ絵があるのは2軒だけです(浴槽の上の壁一面のペンキ絵に限る)。1割もない。とくに新宿区は木造の銭湯が少ないためでもあるのですが、2割くらいかと思っていたので、改めてカウントしてみて私も驚きました。

東京都の組合のサイトで、ペンキ絵で検索してみると、142軒あります。都内の銭湯は全部で535軒なので、4軒に1軒強。これは自己申告のために抜けがありそうですが、メドとしてこの数字を使います。

 

 

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