タイル絵はいまなお進歩し続けている-[銭湯百景 7]-(松沢呉一)
「銭湯ではペンキ絵よりもタイル絵の方が実利的・衛生的・魅力的-[銭湯百景 6]」の続きです。
タイル絵の新展開
私がペンキ絵よりタイル絵の方が好きなのは私個人の趣味にしか過ぎず、「好きか嫌いか」はどっちでもいいのですが、ただの好き嫌いに留まらず、前回書いたように、タイル絵はペンキ絵よりも利点が多いのです。
難点を言うと、昔ながらの日本画風タイル絵を描ける人がいなくなっていることですが、これは技術の進歩でカバーできます。技術の進歩という点でも、ペンキ絵よりタイル絵は面白くて、見るべき点、語るべき点があります。
ここ10年くらいの銭湯のタイル絵には、写真をもとにPC上で設計したことがわかるデザインがあります。絵なり写真なりを選択して、タイルのサイズに合わせてドットを決定すれば、完成図をPC上で見ることができ、それぞれの色のタイルの枚数まで正確に出せて、色調整もできますから失敗はほとんどない。
技術の進歩よって職人技がいらなくなった部分があって、今は写真まで焼き付けられます。それをやるオペレーターが今の時代の職人です。
横山大観をタイル絵にすることもできるし、昔のタイル絵を再現することもできます。すごい時代ですよ。でも、著作権には気をつけましょう。横山大観はすでに著作権が切れてますので安心です。
去年閉店した江戸川橋の松の湯は、子どもにでも原画を描かせたのか、タイル屋が間違えたのか、デッサンの狂い方がすさまじくて、私の好きなタイル絵のひとつでした(笑)。ああいう味のあるタイル絵は出てきにくくなるのは寂しいとも言えますが、ああいうのがよければ、PC上でデッサンを狂わせればいいだけです。
※東京都浴場組合のサイトより高田馬場・世界湯。このタイル絵は写真が元でしょう。この距離だと写真に見えますが、単色のモザイクタイルの集合です。
退色しない写真タイル
以下はこの技術専門らしきピクセラ工房という会社のサイトより。
こういうことができてしまうのです。実物を見るとわかりますが、紙にプリントした写真と遜色のない出来上がりです。写真も加工が容易な時代になりましたから、なんだってできます。これを壁全面に拡大することも可能です。
このサイトにも出てますが、今は墓に写真タイルが使用されています。退色しないのでカラーでもOK。石灯籠を鑑賞するために夜中に墓場に行くと、故人の写真が使われていることがあって、ドキっとします。石灯籠は本来夜のものだからって夜中に鑑賞しに行くのが間違ってます。
長年のペンキ絵とタイル絵が作り上げたイメージのためなのか、これまでにも銭湯に使用されている写真のシートはチープでよくない。タイルにするとまた印象が違ってきそうですが、それでも写真を焼き付けるよりも、絵を焼き付けた方がシックリ来る気がします。あるいは写真を使用するなら、モザイクタイルのドットにした方がいいかもしれない。
そうも皆さん富士山が好きなら、富士山の絵でも写真でもタイルにすればいい。実際に富士山のタイル絵はよくあります。描き替えがいらず、退色もなく、掃除も楽々。私はタイル業界の宣伝マンか。銭湯と言うとペンキ絵を語りたがる人が多い中、タイル派がもうちょっといいてもいいべ。つうか、けっこういると思うんですけど、なぜかこっちは取り上げられにくい。
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