松沢呉一のビバノン・ライフ

なぜ銭湯には提灯がないのか(答えは知らない)-[銭湯百景 8]-(松沢呉一)

タイル絵はいまなお進歩し続けている-[銭湯百景 7]」の続きです

 

 

 

ペンキ絵では客は来ない

 

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中にはペンキ絵のある銭湯を巡っている人たちもいるでしょう。「瓦屋根の定食屋巡りをしている」「割り箸のラーメン屋にしか行かない」みたいな、意味があるのかないのかわからないところに執着する人はいるものです。そういう個人のこだわりは大事ですが、そんな人は極少数であって、銭湯に行く基準としてペンキ絵を挙げる人はほとんどいないと思います。

私は暖簾が好きですから、銭湯の暖簾も気になります。稀に暖簾のない銭湯がありますが、ほとんどの銭湯に暖簾があります。たいていは牛乳石鹸提供の暖簾です。最近はBEAMSの暖簾もちょっとあります。それらもいいのですけど、オリジナルの立派な暖簾を見ると惚れ惚れします。

暖簾はたんなる装飾以上の意味があって、外と中とを分ける仕切りでもあり、道行く人に屋号や扱っている商品を知らしめて、客を集める宣伝物でもあります。提灯が照明器具でありながら看板であるのと似ています。

暖簾と提灯はパックみたいなものですが、不思議なことに銭湯には提灯がありません。建物の中に弓張提灯が飾られていたことは何度かありますが、祭りの時に商店会が出す提灯は別にして、建物の外に店オリジナルの提灯が出されていたのは一回しかなかったと思います。江戸川区だったかな。

なんで提灯は使わないのでしょう。昼からやっているからでしょうか。でも、昼からやっている蕎麦屋や寿司屋でも出しているところはいくらでもあります。提灯は飲食店が使っていることが多いですが、これは夜に営業すること以外に理由はない。神社仏閣でも使い、旅館でもたまに使っていることがあります。

火をつねに使う仕事だからこそ火に嫌うってことなのでしょうか。わからん。こういうのは長年の習慣のため、銭湯の人に聞いてもわからんと思う。

といったように暖簾や提灯も語るべき点はあるのですが、だからと言って、暖簾だけで銭湯に行く人もいない。少しはいるかもしれないけれど。ペンキ絵も同じだと思います。

酒を飲まない私としては暖簾や提灯を褒めながら、中に入ったことがないのはザラです。暖簾や提灯だけ褒められても、店としては寂しいかもしれない。銭湯も同じで、ペンキ絵以外に褒めるべきところはさまざまあります。

※いい暖簾は忘れずに写真を撮っているのですが、探すのが大変なので、東京都浴場組合のサイトから荒川区三河島の帝国湯。三河島周辺にはけっこう銭湯が残っているので、何度も行ってますが、「みかわじま」じゃなくて「みかわしま」なんですね。行くようになってやっと知りました。この銭湯もペンキ絵がありますが、古いタイプのタイル絵もあります。中庭も立派です。ペンキ絵だけじゃなく、そっちも褒めたれ。

 

 

銭湯の魅力はさまざまあり。絵はその背景に過ぎない

 

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浅草・蛇骨湯閉店の衝撃」に書いたように、銭湯を選択する基準として、「サウナがある」「露天風呂がある」「電気風呂がある」「洗い場も浴槽も広い」「天井が高い」「天然温泉」といったような「家庭の風呂では満たせない条件」を挙げる人は多いと思います。

サウナはたまにしか入らないですが、私もここに書いた条件は評価対象。天井が高いのは気分の問題だけでなく、蒸すのが苦手なためです。天井の湯気抜き以外の、窓や換気扇で蒸気を逃がすようになっていれば及第。

露天風呂のある銭湯は都内に117軒あって、リニューアルで増える傾向にあるので、富士山のペンキ絵をプッシュするなら、こっちをプッシュした方がいい。確実に客を呼べます。

「風呂上がりにビールが飲める」「トレーニング室がある」「家に近い」「職場に近い」「駅から近い」「朝からやっている」「夜遅くやっている」「駐車場がある」「知り合いに会える」「井戸水」「薪で焚いている」といった条件を挙げる人も多い。「いつも混み合っていて活気がある」、まったく逆に「空いていて落ち着く」といった条件を挙げる人もいそうです。

夏場だと子どもと銭湯に敷設された小型プールに行くのを楽しみにしている人もいるでしょう。100軒に1軒くらいあります。それしかないですが、これは私も楽しみ。誰もいないと延々と泳ぎます。ふたかきで壁にぶつかりますが。

家族や友人らと出かける人たちは「待合室が広い」ということも条件になりましょう。昔ながらの銭湯だと、番台の横の戸を出ると下駄箱になっていて、外で待つことになりますが、広くてくつろげる待合室のある銭湯があって、畳部屋になっていることもあります。

サウナ利用者の場合は、繰り返し出たり入ったりするため、裸でくつろげる場所があるとポイントが高くて、外気に当たれる休憩所のある銭湯もあります。

昔は中庭が休憩スペースとして機能していて、今も見事な中庭はありますが、一方で庭の池に水がなく、木は荒れ放題で、粗大ゴミ置き場みたいになっている銭湯もあります。ペンキ絵もそうですが、「景気がよかった時代は人を雇えて金も使えたのが、今は維持ができなくなってしまった物件」が銭湯は多いのです。故障している機器も多い。その寂れた感じが私は好きなので、ペンキ絵のある銭湯は好きですけど、ペンキ絵が好きなわけではない。

そしがや温泉21は3回行ってるかな。ここは低温ミストサウナというのがあります。他では見たことがない。サウナなのに寒いんです。冷凍庫に入っている感じ。夏はいいかも。ミニプールもあります。

 

 

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