松沢呉一のビバノン・ライフ

勝海麻衣作品に見る「著作権法上の特例が外にはみ出てしまった例」—ゆるゆる著作権講座 19-(松沢呉一)

ひさびさの「ゆるゆる著作権講座」ですが、直接には「遅ればせながら銭湯とパクリ職人の話-[銭湯百景 4]」から続いてます。

 

 

 

勝海麻衣・武蔵野美術大学卒業制作「still life」を鑑賞する

 

vivanon_sentence勝海麻衣パクリ作品を鑑賞する日々です。

2017年度武蔵野美術大学の卒業制作で優秀作品に選ばれた「still life」とその延長の個展「饗宴」にパクリがあった、もしくは顔のすべてがパクリではないかと指摘されていて、「still life」を鑑賞すると、今回のパクリ騒動が起きた一因とその解決策が少し見えてきます。

以下は武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科卒業制作優秀作品のページより。

 

 

この段階からパクった上でドヤ顔をするスタイルが確立されていたことが確認できます。それはどうでもいいとして、担当教官だった小竹信節教授がコメントしています。天井桟敷の舞台美術を担当していた人物として認識してましたが、武蔵野美術大学で教員をやっていたことは知りませんでた。

 

 

武蔵野美術大学教員プロフィールより

 

 

ここから銭湯のペンキ絵につながるのも理解できました。だったら、昨今、銭湯の新しい動きを作り出している設計事務所でバイトでもした方が、広い視点で銭湯という空間を見ることができると思いますけど、それでは話題作りにはならんですから。

そういう学科であることを前提にすると、このインスタレーションでの顔の重要度が低いことは理解できます。全体の中の一パーツであり、「空間演出デザイン」というテーマにおいて、そこにある個別の人物像の顔はわりとどうでもよくて、とりあえず、どっかにある顔を貼付けていても学校での評価は可能なのだと思います。

先に挙げた作品紹介で、上の写真がこの作品の適切な鑑賞距離だとしたら、顔はどうでもいい。

どうしてここに至るまでに教員や生徒が、パクリについて指摘しなかったのかが不思議だったのですが、この学科だからかもしれない。油絵学科等、絵そのものを評価する学科だったらさすがに放置されることはなかったのではないか。知らんけど。

似たようなことは出版でもよくやります。中身がまだできていない段階で、ラフデザインを作る際、どこかから文章と写真、イラストをもってきて貼付けます。ここではデザインを見るのであって、その中身はどうでもいい。これを注意する人はいない。でも、これを公開しようとしたら、「やめとけ」と注意しますよ。

 

※参考までに武蔵野美術大学入学式。例年、入学式や卒業式では、空間演出デザイン学科が活躍

 

 

 

学校は著作権法の例外

 

vivanon_sentence勝海麻衣さんを擁護する人たちの中には、「パクラー麻衣」スタイルを模倣して、「表現は模倣から始まる」とドヤ顔をして、著作権について理解していないことを明らかにしていることがあります。

学校という場は特例的な場所です。この場所の中だけで許されていることが多々あります。

以下は著作権法。

 

(学校その他の教育機関における複製等)

第三十五条 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における使用に供することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、公表された著作物を複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

(以下略)

 

 

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