東京芸大大学院は勝海麻衣を懲戒処分すべきか否か[中]—懲戒の基準[23]-(松沢呉一)
「東京芸大大学院は勝海麻衣を懲戒処分すべきか否か[上]—懲戒の基準 22」の続きです。
参考までに東大の基準
東京芸大の懲戒基準があまりにアバウトなので、他の大学も調べたところ、同様の学校もあれば、しっかりした大学もあります。並べてみると、大学によって規則は違い、それによって判断も違ってくることがわかりやすくなろうかと思います。
大学によってそんなに違っていていいのかって疑問もありましょうが、学校は独自性があっていいのです。
以下は学部生向けですが、「東京大学学生懲戒処分規程」より。
(懲戒処分の対象)第3条 懲戒処分の対象となりうる行為は、次の各号に掲げるものとする。(1) 犯罪行為(2) 人権を侵害する行為(3) セクシュアル・ハラスメント(4) 試験等における不正行為および論文等の作成における学問的倫理に反する行為(5) 情報倫理に反する行為(6) 本学の規則に違反する行為(7) 本学における教職員の業務ならびに学生等の学習、研究および正当な活動を、暴力、威力、偽計等の不当な手段によって妨害する行為。ただし、学生の正当な自治活動の一環として、大学または部局等への意思表示のために、授業を受けることの放棄を呼びかけること自体は、ここにいう行為にはあたらないものとする。
情報倫理というのは、法律とはまた別の、情報を扱う上での規範のことです。とくにプライバシーについての扱いはここに抵触してきます。友だちのプライバシーをSNSで晒したり、別れた恋人の写真を晒したり。
バイト先で食べもので遊ぶ姿を投稿するような行為も情報倫理違反かもしれない。あるいは法で罰せられないデマの流布やヘイトスピーチも情報倫理違反、または人権侵害行為に該当することになりましょう。
これについての定義は明確ではありません。ヘイトスピーチは法律の定義に従えばいいのですが、SNSで教員の批判をしただけで情報倫理違反だと言われかねない。
セクシュアル・ハラスメントは別途基準がありますが、これがまた曖昧。
刑事犯罪は「犯罪行為」でカバーし、残りの項目はおおむね民事の不法行為に該当するような行為ってところでしょうか。その範囲だとするとセクシュアル・ハラスメントも無闇に拡大はしない。
犯罪行為と言っても軽重いろいろあるわけで、一律に処分するとなると、スピード違反で罰金刑になっても処分対象になってしまいます。その点、東大は「逮捕・勾留された学生の懲戒処分に関する指針」というものを出しています。軽微な犯罪は処分しないことだけでなく、冤罪で処分してしまわないために「どのタイミングで判断をするのか」についても基準が示されています。しっかりしているなあ。
ちゅうか、このくらいの基準を出しておかないと不安になって当然だと思うのですよ。それのない学校が多いのは、「先生や学校の言うことを聞いておけばいい」という思い込みが学校側にも生徒の側にも、社会全体にもあるためではなかろうか。
勝海麻衣がやった行為が刑事的な意味で軽いか重いか一概には言えないですが、駐車違反程度ではないので、退学までは至らないとしても、処分対象になったとしてもおかしくない。「東大基準であれば」です。
参考までに千葉大の基準
何回か先に千葉大が出てきますが、「千葉大学学生の懲戒に関する規程」も細かいです。
(戒告の基準)
第2条 学生が次の各号のいずれかに該当する場合は,戒告を命じることができる。
一 学内又は学外において非違行為を行った場合
二 本学の規則等又は命令に違反する行為を行った場合
(停学の基準)
第3条 学生が次の各号のいずれかに該当する場合は,停学を命じることができる。
一 本学の秩序を乱し,本学の教育研究活動を妨げる行為を行った場合
二 学内又は学外において重大な非違行為を行った場合
三 本学の規則等又は命令に違反する行為を行った場合で,悪質と判断された場合
四 本学が実施する試験等において,不正行為を行った場合
2 停学は,無期又は有期とし,有期の場合の期間は6月以内とする。
3 停学期間は,学則第16条及び大学院学則第7条に規定する休業日を含むものとする。
(放学の基準)
第4条 学生が次の各号のいずれかに該当する場合は,放学を命じることができる。
一 性行不良で改善の見込みがないと認められる場合
二 正当の理由がなくて出席常でない場合
三 本学の秩序を乱し,本学の教育研究活動を妨げる行為を行った場合で,特に悪質と判断された場合
四 学内又は学外において重大な非違行為を行った場合で,特に悪質と判断された場合
五 本学の規則等又は命令に違反する行為を行った場合で,特に悪質と判断された場合
六 その他学生としての本分に著しく反した場合
この規定は学部生、院生とも対象です。
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