東京芸大大学院は勝海麻衣を懲戒処分すべきか否か[下]—懲戒の基準[24]-(松沢呉一)
「東京芸大大学院は勝海麻衣を懲戒処分すべきか否か[中]—懲戒の基準 23」の続きです。
学則で、大学の著作権意識が見えてくる
前回見たように、各大学とも懲戒処分の基準は違っているのですが、論文・レポート。研究活動以外での著作権侵害がはっきりと懲戒処分の対象になると明記されている大学は見つかりませんでした。
今時の大学では、知的所有権についての項目があってもよさそうですけど、ひとつも見つからず。学内では論文・レポート、研究活動以外でこれにひっかかるのはサークル活動くらいで、あとは学外活動になるため、「趣味での不正」といった印象にどうしてもなって、ランク落ちしてしまうのでしょう。
また、著作権については今なお大学では軽視されている可能性も高い。そのことは「無断引用」なんて言葉を使い続けている大学があること、あるいは「引用まで許諾がいると主張する東北芸術工科大学—続・著作権切れの著作物」に書いたような大学があることでもわかります。職員でも教員でも学生でも誰かおかしいって気づけよ。
その結果、具体的な標準例を出している学校こそ、論文・レポート、研究活動以外の著作権侵害は懲戒の対象にならないように見えます。
それでも、盗用は「違法行為」「犯罪行為」といった項目には確実に入りましょう。東京芸大はそれも規定されてないですが、明記がなくてもさすがにこれは懲戒対象ですし、告訴を待つ必要もない。
学位に関する論文じゃなければ、一発で退学は厳しすぎるとしても、繰り返されたら退学も妥当です。
※東京芸大のサイト。カズキチャマという学長のキャラがちょっと気持ち悪い。
AV出演で退学処分になるのは不当
10年ほど前に、体育会系の大学生がゲイビデオに出演していたことが問題になったことがありました。
2009年7月12日付「朝日新聞」
部活は学校とはまた別の基準をもっていてもいいですが、学業と練習で忙しいんだから、効率のいいバイトをやるのは当たり前、学生の本分のためのAV出演なのに、なんで大学が「学生の本分にもとる」なんて言ってるんですかね。実際には学校の処分はなかったようです。処分されたら裁判で勝てるのではなかろうか。
この時点で立命館大学の学則には中学校か高校なみの処分規定しかなくて、この件を受けてなのか、この翌年、立命館大学学生懲戒規程を制定してます。
その時でも今でもAV出演で懲戒処分は不当です。
また、懲戒できないため、AVに出たことで大学から退学を勧められるケースがあるようですが、これも不当です。訴えてやれ。
「学生の本分にもとる」なんて処分基準がいかに恣意的に使用されているのかのいい例です。こんな基準があるから、学校は学外の活動にもかかわらず、気分で学生を処分していいなんて勘違いするのが出てくるのです。
AVの人権問題とやらには敏感な弁護士さんたちも、こっちの人権侵害には無関心なのは解せない。人権侵害が問題なのではなく、AVを問題にするために人権を名目にしているだけなのだと思うしかない。
「大学外の活動である」「学業と関係がなく、学業の妨害にはならない」「法に反しているわけではない」「大学の名前を出しているわけではない」という点が不当である理由です。学校名を出していたとしても、それだけで学校の評判を落としたとは言えず、むしろ知名度と評価を高めているかもしれない。
対して、RAIZINキャンペーンでの盗用は、学外の活動ではあれ、「大学院での活動と関連し、大学院での活動にも影響を及ぼす可能性が高い」「法に反していて、本人も盗用を認めている」「大学の名前を公開し、利用している」などの点で、処分対象になっていい。結果、大学の信用を大いに傷つけています。大学ともなれば、学外の活動について学校が介入する範囲は最小限でいいと考える私でも、これだけ条件が揃うと、やむを得ないと思います。
しかも、パクリを修正すれば問題がないというものではなく、ほぼパクリしかないものであり、評価できる点が存在しない。「心臓に毛が生えている」「図々しいにもほどがある」といった評価はできるとして。パクリ元を手にして公然とやらかした点も悪質。それが報道やSNSで多数複製されることがわかった上のことですから、幾重にも悪質極まりない。
どんな利害関係があるのか知らんけど、ああも悪質な勝海麻衣を擁護した人たちはおかしいって。
※立命館大学のサイトより。「CREATING A FUTURE BEYOND BORDERS」って言うから性の境界線を超えてAVに出たのによ。
盗用で処分された実例を探す
といった点から、仮に退学処分にしたところで大学の処分の正当な範囲のうちに見えますが、一点、処分することにためらう事情があります。先例がないのです。
こういう場合、先例に照らすわけですが、私がネットで見て回った限り、学外の活動における盗用で懲戒処分にした例は、東京芸大以外でも見つかりませんでした。
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