松沢呉一のビバノン・ライフ

全体主義と闘った個人主義者たち—ナチスと婦人運動[7]-(松沢呉一)

東部総合計画とレーベンスボルンの悪夢—ナチスと婦人運動[6]」の続きです。

 

 

 

全体主義の完成型

 

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強制収容所もひどいけれど、東部総合計画もレーベンスボルンもひどい。こういうデタラメをやってとっとと自死したヒトラーもヒムラーもひどい。戦後になってもナチスを支持したゲルトルート・ショルツ=クリンクもひどい。改めて怒りが湧いてきます。

ナチスはしばしば「劣等な人々には苛酷で、アーリア人種は優遇した」といった見方をされます。それには正しい部分もあるのですけど、全体主義を受け入れられない人々にとっては人種を問わず苛酷でした。

個人主義から言えば「誰とセックスするも、誰の子どもを産むも、誰と結婚するも個人の自由」ということになります。個人対個人の関係で金を得るのも自由。避妊方法も選択肢があった方がいい。

しかし、ナチスはセックスする相手、結婚する相手の人種まで制限をし、異民族とセックスをしただけで逮捕します。私的領域での行為であるセックス、結婚、出産、育児を完全管理しようとしたわけです。アーリア人種同士である限り、また、健康である限り、出産や育児の負担を軽減します。さらに長じてはヒトラー・ユーゲント、ドイツ女子同盟が学校外の時間を請け負って、家庭教育の時間を減らします。

これぞ全体主義です。

全体主義とはなんなのか、以下は、Wikipedia

 

全体主義(ぜんたいしゅぎ、イタリア語: totalitarismo, 英: totalitarianism)とは、個人の全ては全体に従属すべきとする思想または政治体制の1つである。この体制を採用する国家は、通常1つの個人や党派または階級によって支配され、その権威には制限が無く、公私を問わず国民生活の全ての側面に対して可能な限り規制を加えるように努める。

政治学では権威主義体制の極端な形とされる。通常は単なる独裁や専制とは異なり、「全体の利益を個人の利益より優先する」だけではなく、個人の私生活なども積極的または強制的に全体に従属させる。全体主義の対義語は個人主義、権威主義の対義語は民主主義である。

 

イタリア語のトータリタリスモは覚えられたのですが、英語のトータリタリアニズムはなかなか覚えられず、最近やっと覚えました。

※ハンナ・アーレント著『全体主義の起源 1—反ユダヤ主義』と『全体主義の起原 2—帝国主義』 これは読んでおきたいと思いつつ、読んでない。全3巻というだけでめげます。しかも、二段組みで文字が小さいんじゃなかったかな。老眼なしで勘で読むのは無理。1巻目はナチスドイツとスターリニズムの共通性を反ユダヤの観点からとらえた内容だと思われて、反全体主義の立場からすると、ナチズムだけを悪者にするのは間違い。スターリニズムも一緒です。

 

 

そこかしこにいる全体主義者

 

vivanon_sentence個人主義者にとっての敵は全体主義です。逆も真であり、だからナチスは個人主義、自由主義をユダヤの思想として嫌いました。ナチスを熱烈支持した吉岡彌生も個人主義を否定しました

「私」の領域への国家の介入が全体主義を見分けるポイントのひとつだと言ってもいいでしょう。中国でも、かつては結婚する相手は共産党の許可が必要であり、時に党が一方的に相手を決定していました。一人っ子政策もそうです。世界最大の全体主義国家です。

政治体制は全体主義ではなくとも、全体主義的発想をする人々は今も至るところにいます。

与謝野晶子が国家に母性を保護してもらう発想に対して「奴隷」として反発したのは個人主義の立場から全体主義的発想への反発だったと考えると理解しやすい。英米においては、行政や私企業が託児所を設置し、あるいは民間経営の託児所が拡充されたことで社会進出を実現していったことは与謝野晶子の許容範囲でしょう。しかし、社会進出を拒否したまま、国家のための出産機械になるのは国家の奴隷。

比較的最近の事例では、金子恵美議員(当時)が私的領域の行為を公的特権でカバーしたこと、それを支持した人たちが多数いたことも、全体主義への抵抗のない人たちがいかに多いのかを物語ります。

もちろん、セックスワークを認められない人々も同様。法で禁止するようなことではない、もしくは禁止してはならないにもかかわらず、そこに法が入り込むことに抵抗のない人々は全体主義に抵抗のない人たちです。個人の意思で売春する女たちこそを強制収容所に送り込んだナチスと同じです。

 

 

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