松沢呉一のビバノン・ライフ

横浜市立大医学部のカンニングに見る集団不正の条件—-カンニングの仕組み[4]-(松沢呉一)

不正をする心理を正確に知ることは難しい(自分の経験で考える)—カンニングの仕組み[3]」の続きです。

 

 

 

横浜市立大医学部に見る集団不正

 

vivanon_sentenceWikipediaの「学業不正」は日本語版と英語版とでは少し違っているのですが、日本語版でも英語版でも、それぞれ別の箇所で、日本ではカンニングが多いことを示唆しています。

しかし、大学については「日本はカンニングが多い」とは言えないと思います。とくに文系。テストが人生を大きく左右することはないし、競争自体がさほどなく、適当にやっていても卒業はできます。法学部だと司法試験を受けるのがいますが、大学の成績と関係がないので、不正なんてする意味がない。

対して、ル・ポンの群集心理とはまた別の集団の意思が支配しやすい高校までは「集団意識によるカンニング」は多いかもしれず、カンニングについてのアンケート調査をする場合、「カンニングをしたのは高校か大学か」の区別をしないと、高校時代までの体験を答えてしまい、それが大学のことだと勘違いされることがありそうです。

しかし、不正が発生しやすい条件が揃っている大学や学部もあります。

以下は2014年7月19日付「日本経済新聞」より。

 

カンニングで学生6人停学 横浜市大医学部

横浜市立大医学部で、模擬診察をする実技試験の前夜、学生が試験会場に忍び込んで試験問題を携帯電話で撮影し、予想問題として受験者にメールで送るカンニング行為があり、学生計6人が停学処分となっていたことが19日までに、大学への取材で分かった。

大学によると、カンニングがあったのは、OSCE(客観的臨床能力試験)と呼ばれる模擬診察などの実技試験。

4年生2人の指示を受けた3年生2人が2月28日夜、「忘れ物をした」と警備員にうそをついて試験会場に入り、壁に貼られていた問題4問を携帯電話で撮影、メールで送信した。別の4年生2人が問題をメールに書き起こし、受験する4年生95人全員に予想問題として送信した。

試験当日の3月1日、匿名の告発メールが教授に届き大学が調査。指示した4年生2人と撮影した3年生2人を停学3カ月、メールを送った4年生2人を停学1カ月とした。予想問題として送る前に相談した4年生11人も戒告とした。

当日は4年生全員が試験を受けたため、大学は4月29日に再試験し、停学処分の4年生4人は受けさせなかった。大学によると、指示した4年生2人は「試験が不安で、事前に問題を知りたかった」と話したという。〔共同〕

 

カンニングペーパーを使った個人プレイのカンニングとはワケが違って、組織的なものであり、学校に忍び込んでいる点で悪質ですし、マヌケでもありますが、学校側は退学処分にはせず、停学どまり。医学部の場合、試験に落ちるだけでも留年決定であり、停学となると出席が足りなくなる点でも留年決定でしょうから、決して軽い処分ではないだろうとは思います。

Googleストリートビューより横浜市立大学医学部

 

 

集団プレイと個人プレイで不正の意識は違う

 

vivanon_sentenceこの記事を見た第一印象としては「「こんなんが医者になっていいのか」「退学でいいだろ」とも思いました。私自身の経験として、はっきりと高校と大学の間に線引きがあって、「大学でこれをやったらダメだろ」と思えるためです。

 

 

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