松沢呉一のビバノン・ライフ

ナチス体制を揺るがす性欲の戦士たち—ナチスと婦人運動[10]-(松沢呉一)

エーデルヴァイス・ピラテンとエーレンフェルダー・グルッペ—ナチスと婦人運動[9]」の続きです。

 

 

 

ナチスドイツでもリンチが横行した

 

vivanon_sentenceナチス体制を根底から揺るがしたのは不良たちと、不良とさえ言えない普通の人々でした。であるが故に注目されることがなく、私はこの事実をH・P・ブロイエル著『ナチ・ドイツ清潔な帝国』で初めて知って驚愕し、歓喜しました。

第二次世界大戦が始まって、男たちは戦地に送られ、その代わりにドイツには支配地域から、労働力としての男たちが徴用されてきます。おもにポーランド人、ロシア人、フランス人です。またイギリス人、アメリカ人の戦争捕虜たちもドイツ国内で労働を強制されていました。スラブ系、アングロサクソン系の人たちも同じインド・ヨーロッパ系ですが、幻想のナチス的アーリア人とそれらは別らしく、なおかつ敵国です。ユダヤ人のような殲滅対象ではないにしても、血が入り混じってはいけない人たちです。

血の純潔維持法」によって、それらの人々との結婚、性交渉は禁じられていたのですが、1939年9月、ドイツはポーランドに侵攻、同年11月、「ドイツ国防力保護のための法規命令」が出され、捕虜との交際、性交渉も懲役刑となります。捕虜の場合は民族がさまざまで、アーリア系も含まれているため、それらとの性交渉も封印しました。

このような異民族や捕虜との性交渉を厳罰化するとともに、もうひとつ進行していくことがありました。私刑です。

1940年、戦争捕虜病院で働いていた18歳の娘が捕虜と性交渉をしたことを自白し、SA隊員によって、公開の場で髪の毛を切られてゲシュタポに手渡されます。民衆はこの措置を怒り(女に対する)とともに歓迎しました。

これ以降、さらし者にするのが慣例となり、SAやゲシュタポに任せず、当然、裁判所の判決を待たずに民衆が女たちをさらし者にし、19歳のチェコ人と15歳のドイツ人とがポーランド人の捕虜と性交渉をしてさらし者にされた時には「わたしたち牝豚は捕虜と関係しました」というプラカードをぶらさげて、ロバに乗せられ、引き回されました。このあとの裁判でチェコ人は懲役15ヶ月、ドイツ人は懲役9ヶ月の判決。人種によって刑罰も違う。この相手となった捕虜はもちろん銃殺です。

A mother and daughter. The mother is perhaps in the Reich Labour Service (Reichsarbeitsdienst; RAD), the daughter in the German League of Maidens (BDM). これはカラーではなく着色されたものだと思われますが、最初から色がついてました。

 

 

捕虜とセックスするドイツ人女性たち

 

vivanon_sentence1940年、捕虜と性交渉する女たちの存在を重んじたゲッベルスは「ドイツ女性はユダヤ人とだけでなく、血の異なるすべての外国人との交渉も許されない」との内容を徹底する指令を全国の指導官と宣伝指導部に発しています。

そのゲッペルスの愛人であるリダ・バーロヴァ(Lída Baarová)はチェコ人なのですが、男は誰とやってもいいってことなのか、ゲッベルスだからいいってことだったようです。

この年、裁判にまで至った数は2,000件足らず、翌年になると4,500件近くに倍増(おそらくこれは捕虜が相手のケースだけでなく、徴用されてきた労働者を含むのだと思われます)。中には逃亡を助け、自身もともに逃げようとしたケースもありました。

これも不良たちの活動が戦争が深まるとともに激化したのと同じでしょう。戦争が終わらない限り、どうせ空襲で死ぬのです。

捕虜とセックスができること自体不思議でもありますが、強制労働を伴うためだろうと思われます。陸続きの国同士の戦争では捕虜になるのが多数出てきます。労働させるには収容所内の施設では足りない。ユダヤ人たちが収容所の近隣にある工場に日々送られたのと同様、近隣の工場に働きに出て、そこにはドイツ人女性たちが働いているってことですが、どうもユダヤ人とは扱いが違って、監視がゆるかったようでもあります。

なお、日本でも、第一次世界大戦の際にドイツ人捕虜を収容した徳島の坂東俘虜収容所でも、地元の女たちで捕虜の子どもを産んだのが多数います。この頃の日本はゆるかったのです。これについて現地で取材した原稿があるので、そのうち循環します。

※チェコで制作されたリダ・バーロヴァとゲッベルスを描いた映画「Lída Baarová」のDVD

 

 

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