松沢呉一のビバノン・ライフ

厳しくしすぎるとルールの効力がなくなる—カンニングの仕組み[6]-(松沢呉一)

カンニング実施率に顕著に出る男女差—カンニングの仕組み[5]」の続きです。

 

 

 

留学生に不正が多い事情

 

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「留学生に不正が多い」という数字があった場合(現にあるわけです)、言語的ハンディにより落ちこぼれる率が高いことを示唆しますが、同じ程度の成績であっても、自国内であれば「大学を辞めて働く」「別の大学に入り直す」という選択を比較的しやすいのに対して、留学生は大学に留まることへの執着が強い可能性がありそうです。集団にまつわる要因をひとつひとつ探して検討しないと間違えた分析をしてしまいます。

細かな要因まで見ていくことは私には困難ですが、ざっくりと「成績がよければ不正をしない。このままでは学業の継続が難しく、かつ学業を継続することに執着があると不正をする条件が揃う。この条件が揃った時に、どんな人種の、どんな国の、どんな信仰の人でも同様に不正をし、性別も年齢もあまり関係がないが、それらは環境に影響を与えるため、不正の発生は集団によって違う出方をする」と言うことはできそう。

多くの人は理由があれば人を殺せるのと同じく、多くの人は理由があれば不正をやる。そうするメリットが大きいと判断すると、あるいはそれを正当化する理由があると、倫理観なんてもんは簡単に乗り越えられてしまって、そうする条件がとくに留学生にはのしかかりやすい。授業についていけず、国をしょって出てきているのに、おめおめと帰れない。そこで不正をやって結局は退学になるということかと思えます。

この時に闘っているのはアメリカ社会かもしれないし、自分自身かもしれないし。

学歴が物を言う社会を変えない限り、あるいは試験でそれが決定する制度を変えない限り、不正はなくなりそうにないですが、不正発見の対策を強化し、処罰を厳しくすれば抑止力にはなります。メリットをリスクが超える。

2013年、ハーバード大学で、約70名が試験の不正で停学処分になっています。家で答えを書く方式の試験です。あちらではポピュラーな方式らしいですが、日本で言えばレポートに近い。模範解答を誰かが書き、それを回して、丸写ししたのが70名ほどいたってことでしょう。模範解答を書いた学生も、まさかそこまで広がるとは思っていなかったのかも。メールが普及した時代はこうなってしまうのです。これも環境の変化がもたらしたものです。

同じ方式で試験をすれば日本でも同程度に不正がなされるでしょうが、これほど厳しい処分は行なわれない。横浜市立大学医学部くらいに悪質な例じゃないと停学にはなりにくい。「だったら、米国と同じくらい日本も厳しくすればいい」と考えてしまいそうになりますが、そうはいかないのです。

※2013年2月4日付「日本経済新聞」より

 

 

日本の退学者数

 

vivanon_sentence平成26年に発表された平成24年度(2012)の「学生の中途退学や休学等の状況について」が日本の大学におけるもっとも新しい退学者調査のようです。

 

平成24年度「学生の中途退学や休学等の状況について」

 

 

この調査では大学の学部生だけでなく、院生や高等専門学校も含まれています。年間79,311人。全体の2.65%。

 

 

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