松沢呉一のビバノン・ライフ

カンニング実施率に顕著に出る男女差—カンニングの仕組み[5]-(松沢呉一)

横浜市立大医学部のカンニングに見る集団不正の条件—-カンニングの仕組み[4]」の続きです。

 

 

 

年齢が上になると不正をしなくなる説

 

vivanon_sentence自分自身が不正をした時の心理さえよくわからず、さまざまな環境や条件が関わってくるので、データがあっても判断が難しい。

難しいことを前提に、つまり、その分析が正しいかどうか常に疑いながら、Wikipediaの「学業不正」の以下の部分を検討してみましょう。

 

カンニングは、生徒(学生)の年齢、性別、成績に関係している。男性より女性、学年が上の学生ほど、成績の良い学生ほどカンニングをしない。課外活動が多いほど学生ほどカンニングをする。課外活動が多い学生は勉強する意欲がわかないし、時間が足りない。課外活動が勉強の邪魔になっている。それでカンニングにはしる傾向がある。学年が下の学生ほどカンニングをする傾向が高いが、4年制大学で最もカンニングをするのは2年生だという研究報告がある

カンニングは道徳観が発達すれば減ると期待されるかもしれないが、学生の道徳試験(morality test)の成績とカンニング率は相関性がない

数千人の大学生を対象にしたドイツの調査では、勉強がひどく遅れると、学業不正をする頻度が高くなる。勉強しないから遅れるのだが、その遅れを取り戻そうと考える戦略がカンニングなのだとある

 

ここに書かれている「学年が上の学生ほどカンニングをしない」という話は私自身の高校から大学への変化を見た時には当てはまるのですが、逆転を示す調査もあるので、単純ではなそうです。

ここは学校の制度にも左右されそうです。成績が悪くても自動的に4年まで行ける大学と違い、2年の教養課程の段階で単位を落とすと3年になれない大学だと、1年より2年の方が不正が増えましょうし、卒業することが難しい大学だと、3年より4年の方が不正が増える傾向にあるはずです。

また、医学部のように繰り返し試験があってふるい落とされ、その先に国家試験という大きな難関が控えている学部では、日常の試験でも赤点をとるわけにはいかない。学校単位の合格率を上げるため、私大医学部では、成績の悪い学生は国家試験を受けさせてくれない。こういう環境でこそ不正が発生しやすい。人数も少ないため、仲間意識が生まれやすいですし。

個々人の心というより、制度や環境が不正を生むのです(それとは別に個人の問題としか言いようがない不正もあります。盗用は個人の問題が大きい)。

仲間意識を確認するための集団不正以外では、成績のいい学生はわざわざリスクをしょってそれ以上成績を上げる必要はないのは当然。大学であれば学力の平均化がなされているので、成績がいい生徒ほどカンニングをしないのはもともとの知力の違いではなくて、もっぱら大学に入って以降の姿勢が反映されていましょう。

もうひとつ、ここで指摘されている「性別」についてはカンニングに関する調査で、確実に数字に違いが出ています。なぜか。

※押川春浪著『怪風一陣』(大正3年)より「試験場の一珍事」。この頃にも大学ではカンニングが流行っていたとあり、教員もあまり問題視はしておらず。ここに出てくるカンニングは5,6人の学生が試験中に相談しながら回答する大胆なもので、完全に集団プレイです。

 

 

カンニングにおける男女比

 

vivanon_sentence名城嗣明「大学生のカンニングに対する態度」から、最近のネット調査まで、ことごとくの調査で男の方がカンニングあるいはそれ以外の不正を経験している率が高い。ここはデフォルト。

以下はネットの調査です。

 

2018年9月18日付「しらべぇ」より

 

 

20代のみ逆転して女の方がカンニング体験率が高いですが、あとはすべて男の方がずっと体験率が高い。40代では男は女の倍です。

このことから「女は男に比べて倫理観が強く、不正をしない傾向がある。女は平和的、男が戦争を起こす」なんて安直な結論を出してしまう人たちがいそうですが、この数字が信用できるとすると、重要なことを示唆しています。

 

 

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