店は客をどこまで選別していいのか—GOLD FINGERのトランスジェンダー排除問題[1]-(松沢呉一)
GOLD FINGERのトランスジェンダー排除問題について
世の中に興味がなくなっているので、全然情報を追ってなくて、人と会って話題を振られても、なんのことかわからんことがよくあります。
二丁目のレズビアンバーのトランス排除問題も先日会った知人に軽く振られたのですが、ぼんやりとしかわかってなくて、改めて記事を読みました。
2019年6月9日付「BuzzFeedNews」より
あ、GOLD FINGERなのか。やっとわかった。
GOLD FINGERが謝罪を出したことで話は終わりですが、モヤモヤが残っている人たちもいるようです。これが差別なら「女性限定」「男性限定」にしている店は差別なのかとか。
なぜゲイバーやレズビアンバーは性別やセクシュアリティで客を選別していいのか、「ジャパニーズ・オンリー」とどこが違うのかについては私自身気になって、何年か前に、差別問題に比較的敏感な人々に聞いてみたことがあるのですが、典型的な答えは「ゲイやレズビアンはマイノリティであり、マジョリティがマイノリティを排除することは許されないが、逆は許される」というものでした。弁護士でもそう答えたのがいました。
しかし、この論には無理があります。「男性限定」「ゲイ限定」の店は女性を排除し、当然、レズビアンを排除しています。個別に見た時にはともあれ、一般には男より女の方がマイノリティであり、ゲイよりレズビアンの方がマイノリティですから、これはアウトにならなければおかしい。
一律に「LGBTは差別されるマイノリティ」と規定することによってその中での差異が見えなくなっている、あるいはあえて見ないようにしている論なのではなかろうか。この論が成立するのは「LGBT ONLY」としている店だけです。そんな店ないと思うけど。
当たり前のように考えてきたこういった客の選別は、実のところ当たり前ではなく、それが許される条件、許されない条件というのがあって、そのことと照らし合わせると、GOLD FINGERの件も判断しやすくなります。
この条件は個人の感覚、勘、感情で判断しても埒があきません。客観性のある条件を見出す必要があります。では、以下、それを確認していくとしましょう。
入店拒否裁判を参照する
ゲイバー、レズビアンバーが客を選別することの是非や外国人お断りの不動産物件の是非、客を選ぶ偏屈ラーメン屋の是非についてはかつてメルマガで論じています。何人かの人に意見を求めたのはその時です。
以下書いていくことはその内容を相当までなぞっていますので、それを読んだ人は最後のまとめ部分以外は読まなくていいっすよ。でも、まとめパートは是非お読み下さい。
これまでいくつか「外国人入店拒否」についての民事裁判が起きています。判決がすべて妥当というわけではなく、不当判決と言っていいものもあるのですが、原告が勝訴した事例、敗訴した事例を見ていくと、どういう基準で不法性が判断されるのかがわかってきます。あくまで裁判上の話ですから、それが今回のケースにそのまま適用できるわけではないながら、大いに参考になります。
入店拒否裁判でもっとも知られるのは小樽温泉入浴拒否裁判です。差別問題に関心のある人は理解していると思いますが、ロシア人の船員たちのマナーがひどく、酔って騒ぐなどしたために、温泉(宿泊施設のないスーパー銭湯です)が一律に外国人の入場を拒否したもので、原告はロシア人ではありません。日本国籍を持つ米人です(ここでの米人は米国で生まれて育ったという意味)。
(残り 1332文字/全文: 2851文字)
この記事の続きは会員限定です。入会をご検討の方は「ウェブマガジンのご案内」をクリックして内容をご確認ください。
ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。
会員の方は、ログインしてください。
外部サービスアカウントでログイン
Twitterログイン機能終了のお知らせ
Facebookログイン機能終了のお知らせ