松沢呉一のビバノン・ライフ

ゴルフクラブ入会拒否裁判で境界線を探る—GOLD FINGERのトランスジェンダー排除問題[3]-(松沢呉一)

同じ業種でもひとくくりにはできない—GOLD FINGERのトランスジェンダー排除問題[2]」の続きです。

 

飲食店に公共性は求められるか

 

vivanon_sentence飲食店については、ここまで見てきた業種に比すと、公共性は薄い。人間は食べたり飲んだりができなければ死ぬわけですが、にもかかわらず、飲食店は公共性が高い存在だとあまり見なされない。

たとえばドレスコードがあってもいい。偏屈オヤジのラーメン屋が気に食わない客に「二度とくんな」と言ってもいい。これが許されているのは、飲食店に対しての法律は、衛生面の管理を目的とした食品衛生法や社会秩序維持のための風営法などであって、店が客を選択することに対する法律が存在しないためです。

その法律がない理由のひとつは代替が容易ということでしょう。ある特定に店から入店を拒否されてもそんなには困らない。日本国中の多くの場所で、安い飲食店が多数あって、正装をしていないからとしてコースが2万円のフランス料理店で断られても、牛丼屋や立ち食い蕎麦屋で生きていくことはできます。コンビニで弁当を買ってもいい。

しかし、誰でも入れるはずの店が、正当な理由なくして、人種や性別によって入店お断りをやると不法性が認められる可能性が高い。この場合の根拠法は憲法でしょう。

一方、その裏通りのビルの中に入っている偏屈なママがやっている会員制のスナックはどういう理由であれ客を選んでいいという線引きがあり得ます。これも条件があると思いますが(下記参照)。

たかがロケーションや店の作りでそうも対応が違っていいのかと思うかもしれないですが、「どういうロケーションで、どういう店構えか」は判決に影響する重要な条件です(浜松市宝石店入店拒否事件参照)。あとは規模だったり経営母体が個人か法人かの違いだったりも時には関係してきます。

自身がやられた時のことを考えればこの区別は納得できます。新大久保で焼肉を食おうとして、路面にある店に入ったら、「ここは韓国人専用だから日本人は帰ってくれ」と言われたらムッとしましょう。しかし、その裏にある飲み屋ビルにある、「会員制」と表示されたスナックで同じことを言われても腹は立たない。通常そんな店に入ろうとすることもなく、入ろうとする側に最初から無理があって、そう言われたら、「そりゃ、韓国から日本に来ている人たちも、母国の言葉で思う存分話をして、日本の悪口を言いたいこともあらあな」と理解しましょう。

※何度か入ったことのある職安通り沿い(歌舞伎町)のホルモン系焼肉屋。たまたま通りかかった時に撮っただけ。

 

 

ビルの中の飲み屋が「会員制」にしている理由

 

vivanon_sentence一階か階上あるいは地下か、入りやすそうな店構えか、誰でも入れるわけではないことを表示しているのかによって容認されるかどうかは違ってきます。業種の公共性とは別に、道路という公共のスペースから直結している路面店にはどうしたって公共性が入り込んでくるのです。

その点、ビルの中に入らなければならない店では純然たる私的空間に近づく。路面店でもドアがしっかりしていて窓もなく中が見えず、小さな看板と「会員制」と出ていたらその公共性が遮断されて、民家と同じと言えるかもしれないですが、不特定多数を相手にするわけではないので、そういう店はビルの中にあっていい。

そこでは特定の国の人だけで集まれるようにした店や日本人だけで集まれるようにした店があっていい。しかし、「そんな店はこっそりやれよ」ってことです。現実に会員制ということにして、歓迎しない客が来たら、「会員制なので」と断れば、どういう基準で断ったのか気づかれもしないわけで。

新大久保の焼肉屋に入ろうとしたら「貸し切りです」と断られるのはやむを得ない。中を覗いたら女しかいない。「男だから拒否したのか」と文句を言うのは不当です。女のグループが貸し切っているだけ。会員制もこれに近くて、その会員が誰であるのか、どういう条件で選別したかを公開する必要はない。内部で決定すればよい。

二丁目に限らず、ビルの中の飲み屋に「会員制」と出ていることがあるのはそういう事情です。入ろうとしても店の勝手気侭な審査で断ることがありますよと。そのことの正当性もすでに裁判で論じられています。

※新宿二丁目にて

 

 

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