松沢呉一のビバノン・ライフ

男も女も望んでヒトラーの共犯者となった—ルドルフ・ヘス著『アウシュヴィッツ収容所』を読む[10]-(松沢呉一)

人々は失われた神をヒトラーに見た—ルドルフ・ヘス著『アウシュヴィッツ収容所』を読む[9]」の続きです。

 

 

 

神に帰依する人々の心がヒトラーに向かった

 

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宗教の勧誘をする場合、すでにどこかの教団に入っている人の方が無宗教の人より効率がいいという話を聞いたことがあります。

新興宗教の場合、教祖自身が、どこかの教団から抜けて独立したケースがよくあって、その教義や儀式、雰囲気はもとの教団を引き継いでいるため、さらには人まで移動してきているため、元の教団の信者たちにとっては馴染みやすいということがあるわけですが、そういった流れと無関係でも、信仰経験のある人の方が勧誘しやすい。大きなものに依存したいという欲望をもっているからだと思います。

ひとつの価値観でまとまる共同体を志向する、つまりは全体主義を志向する人たちであり、ドイツにおいては、プロテスタントの信仰が絶大だったことがナチスを受け入れる素地になったと見ても大きくは間違っていないだろうと思えます。

ヴァイマル共和国は複数の政党による連立政権でした。皇帝が絶対の存在だった時代とは決定的に違う。唯一絶対の神を信じる国教としてのプロテスタントも失われました。乱立する政党、乱立する価値観に対して、唯一の真理たる絶対神を国民は求めたのです。

もちろん、ナチスの登場はそれだけで説明できるものではなくて、第一次世界大戦の敗北、ヴェルサイユ条約の重荷、ソ連の脅威、失業率の増加、極度のインフレなどなどが関わっているわけですけど、それらの不安、不満を解消してくれるものとしてヒトラーという独裁者、ナチスという全体主義に頼ってしまったことの背景には、神に依存する人々の心理がありそうです。

そして、ヒトラーはそれを意識していました。

Girls in traditional dress reach toward the Light.

 

 

男も女も望んでヒトラーの共犯者になった

 

vivanon_sentenceグイド・クノップ著『アドルフ・ヒトラー五つの肖像』では、人を殺せないヒトラーの机上の妄想が現実になった事情をこう説明しています。

 

このような想像を絶することが可能になったのは、大勢の共犯者がいたからこそである。移送列車の機関士から、強制収容所の監視兵、さらにはユダヤ人の虐殺を組織した人間にいたるまで、みな熱心に犯罪者へ手を貸した。(略)柔順な手先を見つけるのに、長くはかからなかった。付和雷同する国民には、いくらでも共犯者のストックがあった。

 

この共犯者には女も含まれます。ナチス関連の本ではしばしば女たちも共犯者であったことが指摘されていて、ただの傍観者でも被害者でもなかったことが強調されています。

おそらくこれは、ドイツでも、あるいはそれ以外の国でも、一部のおかしなフェミニスト、一部のおかしな平和運動家が、「男が戦争を起こす。女はいつも無垢な被害者だ」「女が政治をやれば戦争はなくなる」なんて、事実を踏まえないマヌケなことを言いたがることに対抗して繰り返し現実を記述する必要があるためだろうと想像します。

ちょっと前にも、どこかの集会でこういう話をしているのがいてうんざりしたという話を知人から聞きました。日本においては婦人矯風会が軍部に全面協力し市川房江や山高しげりら婦選獲得同盟のメンバーが女の戦争参加を駆り立てた歴史を見れば、こんなことを言えるはずがない。

もちろん、男社会であった日本やナチスドイツにおいて、女が決定権を持つ立場にはなれず、ドイツ女子同盟はヒトラー・ユーゲントの下部組織のようなものであり、親衛隊員のセックス処理団体とさえ見なされてました。また、女のトップであったゲルトルート・ショルツ=クリンクでさえ、決定権のないただの看板であり、だから戦後の裁判で処刑されませんでした(彼女には軽い責任しかなかったという見方については大いに疑問があります。これについて次のユニットで見ていきます)。

その権力の偏在から、ナチスの責任は圧倒的に男が負うのですけど、女たちが無垢な被害者であったなんてことはなく、地位の違いによる責任を抜きにすると、女たちの方が熱狂的にヒトラーを支持したようにも見えます。

ヘスがそうであったように、男たちは仕事として親衛隊になり、そこでの安定や出世を求め、内心納得できないことがあっても押し殺していたのに対して、実情がわかっていない分、女たちの方がピュアにヒトラーを支持できていたのだろうと推測します。

Einige Frauen machen den Hitlergruß an Deck eines Kreuzfahrtschiffs im April 1938 着色しました。

 

 

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