松沢呉一のビバノン・ライフ

盗撮よりエロ中継の方が悪質なはずがあるか?—そろそろ刑法174条(公然わいせつ)と175条(わいせつ物頒布)を見直しませんか?[2]-(松沢呉一)

エロ動画を配信しただけで顔や名前まで報じる必要がどこにある—そろそろ刑法174条(公然わいせつ)と175条(わいせつ物頒布)を見直しませんか?[1]」の続きです。

 

 

 

実名報道をもう一度考えたい

 

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実名報道については半世紀くらい前からずっと疑問が出されています。私は「一切実名を出すな」なんて主張する気はなくて、政治家や官僚のような公人、芸能人、作家等の著名人、大学教員など社会的責任のある人々はプライバシーは制限され、これらの人々の刑事犯罪については実名入りで報道されていい。

法を遵守すべき裁判官、弁護士、警察官等については軽微な犯罪でも名前や顔まで報じられていい。また、誰であれ、殺人、放火、強盗等の重要犯罪についても実名報道でいいと思っています。その範囲を越えて実名報道をやり続けている報道関係者も軽微な犯罪で実名報道されて顔まで晒されていい。

しかし、そうではない市井の人々による、通常は罰金刑相当の軽微な犯罪、海外に比して不当あるいは過重な法律に反する犯罪、とりわけ被害者のいない社会的法益の犯罪については実名報道する必要はないと考えます。逆に実名報道すべしという人たちは、「なぜそれらの犯罪で実名を出す必要があるのか」「法による制裁以上の制裁がなぜ必要なのか」を説明して欲しい。

もしそれらで実名を出すのが適切であるなら、公務員の盗撮や痴漢で名前が出されていない場合は抗議をすべきでは? 常に出されないわけではないですが、なぜ公務員には配慮することがあって、ただのエロ中継では警察や報道は配慮がないわけ? 公務員が名前を伏せられていることが多い印象があるのは、懲戒処分は公開が原則なので、その結果報じられる絶対数が多いためかとも思うのですが、現に出ない例があって、それで支障はないわけですよ。

私立ですけど、「パターナリズムから抜けられない大学教員—懲戒の基準[30]」で見た盗撮教授は名前が報じられていません。これはその時点で、刑事事件にはなっておらず、大学も名前を公開していないからですけど、いいですね、大学の先生は。盗撮しても学生は被害届けを出さず、学校も警察に通報しなかったようです。恩情がありますぜ。こうして盗撮教授は次の職場にぬけぬけと移るわけです。盗撮するなら大学で。

 

 

悪質さとのバランスがおかしい報道

 

vivanon_sentence刑事事件になったところで、盗撮は条例違反のためなのか、とくに著名な人や、悪質なものでなければ、警察は名前を発表をせず、事件そのものの発表をしないこともあって、学校の教職員の場合は教育委員会が懲戒処分を発表して初めて発覚し、悪質なものは教育委員会の判断で名前を公開することもあります。大学は教育委員会の管轄ではないので、大学が伏せたらそれでおしまい。

しかし、自分の学校の生徒を盗撮するのはすべて悪質じゃないんか。教師ですから、生徒は油断するでしょ。それをいいことに盗撮することより、自身のエロ動画を配信することの方が悪質か?

これらも一律に名前を出すべきだと言いたいのではなく、バランスがおかしいって話。エロ動画の配信で名前を出すなら、こっちも名前を出さなきゃおかしいでしょ。

条例の方が軽いとは言えず、盗撮や痴漢(迷惑防止条例違反のタイプの痴漢)は条例によって半年以下か1年以下の懲役ですから、公然わいせつと同等あるいは重いのです。こういうのは再犯の可能性が高いとも言われていて、現に別の学校に移ってまたやるのがいることを考えると(全体としてそういう傾向があるのかどうかについては要確認)、実名を伏せるのが適切とは思えない。

 

 

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