Facebookの振り見て我が国直せ—そろそろ刑法174条(公然わいせつ)と175条(わいせつ物頒布)を見直しませんか?[7]-(松沢呉一)
「スペンサー・チュニックの表現から知る日本の位置—そろそろ刑法174条(公然わいせつ)と175条(わいせつ物頒布)を見直しませんか?[6]」の続きです。
ヌード写真はアートではない?
警察が警備する中、公共の場で数十から数千の人々堂々と全裸になった様子を撮ったスペンサー・チュニックの作品が、SNSでは削除され、アカウントが消されたこともあります。これが今回のFacebook本社への抗議行動「WE THE NIPPLE」につながっています。
以下はInstagramのガイドラインです。
多様なオーディエンスに適した写真と動画を投稿してください。
芸術的・創造的なヌード画像をシェアしたくなることもあるでしょう。しかし、さまざまな理由から、Instagramではヌード画像を許可していません。それには、性行為や性器、衣服を着けていない臀部のアップの写真、動画、デジタル処理で作成されたコンテンツなどが含まれます。また、女性の乳首の写真も含まれますが、乳房切除術後の瘢痕や授乳をしている女性の写真は許可されます。ヌードの絵画や彫刻の写真も許可されています。
どういう表現であれヌード写真はNG。「乳房切除術後の瘢痕や授乳をしている女性の写真」はNG。
抗議の表現、意識喚起、教育や医学的な理由など、さまざまな理由でヌード表現が必要となる場合があります。このような意図が明確である場合は、ヌードコンテンツの投稿が認められています。例えば、女性の乳首を含む胸の画像は禁止されていますが、抗議活動、授乳の様子、乳房切除手術後の医用写真などの画像は規制の対象にはなりません。また、ヌードの人物を描いた絵画や彫刻などの芸術作品の写真の投稿も認めています。
「抗議の表現、意識喚起、教育や医学的な理由が明確である場合」を除いてヌード写真はNG。また、「抗議活動、授乳の様子、乳房切除手術後の医用写真などの画像」を除いて乳首はNG。「WE THE NIPPLE」は「抗議の表現」ですから、全裸でも投稿できます。ヌード表現は今後すべてFacebookへの抗議の表現として出していけばいいんじゃないかな。
いずれも絵画、彫刻を撮った写真はいいのだけれど、生身のヌードを撮った写真は原則認めないと読めます。これではまるでヌード写真はアートとして認めないと言っているようです。ここんところが、美術関係者は納得できないところだろうと想像できます。
現実に削除された写真では乳首が見えていることが問題にされたと思われて、ここで「FREE THE NIPPLE」とつながっていきますし、乳首が出ていなくても、削除されるヌードの率は女の方に偏りがあるでしょう。
なにしろ、パンツをはいていてもスカートをめくっていると女は削除されるくらいで、Facebookにとって女は存在が猥褻なのです。だったら、「女性は下着姿でも削除対象です」とはっきり書けばいいのに。
私企業ではあれ、公共財に近い存在になっているSNSにおいては、ガイドラインを無視して気分で適当に削除することは不当です。ガイドラインを無効化することであり、最大限萎縮を加速します。これは「WE THE NIPPLE」以前の話です。
※スペンサー・チュニックの作品集『Participant』。これもヌードである上に、女の乳首が多数見えているため、FacebookやInstagramでは削除される可能性があります。
生で子どもが見ているのに、記録を子どもに見せない理不尽
公共性が高いがゆえにヌードはすべてNGという判断もわからんではないのですが、チュニックの作品について言えばたしかに削除は納得しにくい。公共の場で堂々と合法的にやっていることの記録ですから。
こういう議論になると必ず出てくるのは「未成年者だってSNSを利用しているのだから」という話ですが、チュニックの撮影では子どもが通りかかることもあるでしょう。
チュニックに限らず、アート文脈での全裸、抗議の文脈での全裸では、その場に子どもがいることがしばしばあることを見ても、また、ナチュリズムの文脈では、子どもが自身全裸で参加していますから、猥褻ではない裸を見て問題が生じるとは思いにくい。子どもが公園の裸体彫刻を見ても問題が生じないのと同じです。
作品からは読みとれないですが、前回観たドキュメンタリー「NAKED WORLD」での現場の雰囲気は完全にナチュリズムです。裸になることで解放されるのであって、猥褻とは無縁です。
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