ビンタをして処刑されたエリザベート・フォルケンラート—収容所内の愛と性[4]-(松沢呉一)
「美しきサディスト?/イルマ・グレーゼ—収容所内の愛と性[3]」の続きです。
動くアンネリーゼ・コールマン
ベルゲン・ベルゼン強制収容所解放後の埋葬を撮った記録映画がありました。こちらで観られます。スチール写真と違って、遺体の顔までがアップになり、なおかつ動画なので、スチール以上に生々しく、こういうものが苦手な人は決してクリックしないように。
これによると、17,000人の遺体を埋葬したとのこと。英軍将校は腸チフスの蔓延によるものだと説明しています。たしかに遺体はゴム人形のようになっていて、すでに死後硬直は終わっており、敗走に伴って一気に虐殺したものではなさそうです(訂正:この集団埋葬は4月23日に行なわれており、解放は4月15日ですから、解放直前に殺されたのだとしてもすでに十分な時間が経ってます。とは言え、ベルゲン・ベルゼンでそのような駆け込み虐殺があったという話はまったく出ておらず、ほとんどが腸チフスによる死亡者であることは間違いなそうです)。
腸チフスでこれだけの死者が出たのは、食糧がほとんど与えられず、医療も受けられなかったことに原因があって、これもホロコーストの犠牲者としていいでしょう。
映画館で流すニュース映画にしては長く、どういう方法で公開したのかわからないですが、宣伝効果抜群です。ナチスは悪魔であるとの印象が強まり、英米ソの軍隊による、あるいは民間人による制裁はすべて肯定されます。裁判がおかしくても、おかしいと指摘するメディアは少なかったのではなかろうか。
この埋葬自体、制裁の側面があって、マスクどころか、手袋もさせてもらえなかったと裁判で誰かが証言してました。そのため親衛隊も看守も腸チフスでバタバタと倒れて死者多数。この時に限らず。看守たちはしばしば腸チフスをやってます。収容所の担当はナチスの最下層なのです。
この動画にもイルマ・グレーゼの姿はありません。アンネリーゼ・コールマンがいないかと探したら、いました。端っこの方に小さく映っているのが彼女だと思います。一瞬ですのでお見逃しのないように。
腰を屈めているところです。このSSだとよくわからんですけど、動画を観てもよくわからんです。よく見つけたな、ワシ。
ベルゼン裁判のフィルム
他の裁判のフィルムは観ていたのに、今までなぜか探そうとしていなかったベルゼン裁判のニュースフィルムもありました。
複数あるのですが、オリジナル映像を各ニュース映画の会社が編集していて、どれも素材は同じです。
男では1番をつけたベルゼンの所長ヨーゼフ・クラーマー(Josef Kramer)、2番の医師フリッツ・クライン(Fritz Klein)の名が出ていて、女では9番のイルマ・グレーゼです。三人とも死刑です。
日本では敗戦が遅れたこともあって、こんなんを話題にする余裕はなかったでしょうが、英米仏ではイルマ・グレーゼは注目の的。動画でもたしかに彼女は美人です。髪の毛にも気を遣っていることがわかります。
注目されたがために、「悪魔のナチス」を一手に引き受けることになっていったのですが、一看守ですから、ヨーゼフ・クラーマーやフリッツ・クラインとは責任がまったく違います。それでも彼女は処刑されました。そうしないと世論が納得しない。
彼女を中心に被告らをカメラがなめるところがありますが、8番はヘルタ・エーラート(Herta Ehlert)、 10番はイルゼ・ローテ、11番はヒルデ・ローバウアー (Hilde Lohbauer)です。ヒルデ・ローバウアーはその前の護送車から降りて裁判所に入るところでも一瞬映ってます。彼女はそのうちままた登場します。
アンネリーゼ・コールマンのもう一人のセフレ
残念ながら7番が映ってないのですが、他のニュース映画も同じです。7番はアンネリーゼ・コールマンが肉体関係にあったと証言した看守のもう一人であるエリザベート・フォルケンラート(Elisabeth Volkenrath)です。
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