松沢呉一のビバノン・ライフ

英軍将校にも裁判批判をした人はいた—収容所内の愛と性[14]-(松沢呉一)

解放後の殺人で処刑された収容者エーリッヒ・ゾッデル—収容所内の愛と性[13]」の続きです。

 

 

 

英軍将校の弁護論

 

vivanon_sentence個人個人の裁判の記録を読んで、エーリッヒ・ゾッデルやヘレナ・コッペルのような人たちもいたにせよ、大半の被告になった収容者に私は同情しました。

私の読みがおかしいわけではない証拠として、英軍将校の弁護人も私が感じたのと同様の疑問を表明し、何人かの被告に対して無罪を主張しています。

こちらヨハンネ・ロート(JOHANNE ROTH)、アンナ・ヘンペル(ANNA HEMPEL)、ヒルデガルト・ハーネル(HILDEGARD HAHNEL)に対する弁護論が出ています。

以下、補足しつつ、その主張を見ていきます。

マンロー大尉(Captain Munro)はこの裁判の弁護人の一人です。ここで弁護されているヨハンネ・ロートはポーランド人と住んでいて捕まった収容者です。1941年から収容されていたキャリアの長い収容者でありながら、ベルゲン・ベルゼンに来たのは1945年1月末、役付になったのは1945年3月末からであり、2週間から3週間の間のことです。その間に食べものの配給に二度並ぶなどの不正に対して革のベルトで殴ったことを本人も認めています。

あとの2人は親衛隊補助員ですが、アンナ・ヘンペルはそれまで工場で収容者の監督をやっていて、1945年2月17日からベルゲン・ベルゼン収容所へ。4月9日からチフスに感染して入院し、翌月退院。台所の野菜むきの係であり、かぶを盗もうとした男の背中を棒で叩いたことがあるだけ。看守も下っ端は楽ができるわけではなくて、チフスで倒れるまで労働時間は14時間から16時間労働だったそうです。これは収容者が急増したベルゲン・ベルゼンだったからでしょう。

ヒルデガルト・ハーネルはよくわからない人です。早い段階で無罪が確定していたと見えて、詳しい経歴が裁判で明らかにされていないのです。本人は英軍解放後にベルゲン・ベルゼンに到着したと言っています。実際には解放直前だった可能性もあるのですが、なんにせよ、仕事をしていない。仕事をする予定で来たのでさえなく、流れでベルゲン・ベルゼンに辿り着いただけのようでもあります。

だったら最初から起訴するなよって話ですが、こういう経緯にもかかわらず、収容者を虐待したという証言があったのです。虐待の証言があった人たちを起訴して、あとから取り調べという順番だったのかもしれないし、事前の取り調べでは言葉の問題があって、この経緯がわからなかったのかもしれない。

しかし、裁判で、他の看守たちが彼女はいなかったことを証言していて無罪に。ヒルデガルト・ハーネルも無罪、アンナ・ヘンペルはどうあれ看守であり、棒で叩いたことを認めていることから懲役3年です。

Anna Hempel / Herdlitschke and Gesela Koblischek War Crimes ID photograph.

 

 

信用できない証人の例

 

vivanon_sentenceこの弁護では、なぜそのような暴行が行なわれたのかの背景についても説明しています。食べものが不足する中、盗みや二重配給をすると食べものが足りなくなる。大量の病人がいる中、強い者、ずるい者がもっていくと、病人や妊婦、子どもに食べものが回らない。そのための殴打であり、サディスティックな喜びのためではないのだと。

それにしても不正を防ぐ方法、または懲罰する方法があったと思うのですが、これは上層部が考えることであり、こういった仕組みになっている以上、下は従うしかない。

ただし、上が暴力による支配を命じていたのではなかったようです。自然とこういうやり方が定着したのであり、ルドルフ・ヘスがそんなことになっているとは知らなかったと嘆いていたのは半分本当なのだろうと思います。

この擁護では、信用ならない証言があること、誇張された証言があることを明確に指摘しています。その例としてヘレンという証人の名前が出ています。これはヘレン・クライン(Helen Klein)という若い収容者であり、被告ではありません。

ヘレン・クラインは1942年、18歳の時にビルケナウに収容されています。彼女はヨーゼフ・クラーマーフリッツ・クラインペーター・ヴァインガルトナー(Peter Weingartner)、フランツ・ヘスラー(Franz Hoessler)、ヘルタ・エーラートイルマ・グレースゲルトルート・ザウワー(Gertrud Sauer)ヨハンネ・ロートアンナ・ヘンペルヘレナ・コペルを知っていると言い、全員について裁判で不利になる証言をしています。不利な証言をしたヘレナ・コペルがここでは言われる側です。ヘレナ・コペルについては親衛隊に情報提供していたというだけで、新規の情報はないですが。

 

 

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