松沢呉一のビバノン・ライフ

トム・オブ・フィンランドが語りかけてくる—そろそろ刑法174条(公然わいせつ)と175条(わいせつ物頒布)を見直しませんか?[横道編 1]-(松沢呉一)

本編の流れに入れにくいネタを「横道編」で書いていくことにしました。

 

 

映画「トム・オブ・フィンランド」は8月2日公開

 

vivanon_sentenceグッドタイミング。刑法175条を考える上で格好の素材です。

 

 

2019年7月31日付「毎日新聞」より

 

 

 

「映画の一部に性器が映ったポスターが壁に張られたシーンがあること」程度では刑法175条違反にはならないことはメープルソープ裁判で確定しています。

その結果、修正なしでもR18指定で公開できたって話。それを中心に据えた作品ではなく、全体の中で一部に性器が出てきたところで、公開できるところまでは来ました。少し前に進んで、めでたし、めでたし。って話でもあるのです。

しかし、当初は修正をしなければ映倫を通らなかった可能性もありました。業界の自主規制でしかないですから、映倫を通っていない作品でも上映するのは可能なのですが、多くの映画館は映倫を通っていることを条件にしているため、ホールや公民館を借りて地味に自主上映をしていくしかなくなります。

こうなると動員を見込めないですから、多くの配給会社は「だったら修正しよう」「カットしよう」と判断するでしょうが、トム・オブ・フィンランドの映画です。性を表現することで同性愛者に対する偏見や法の規制と闘ってきた人物の映画に対して、あまり失礼ですし、映画を作った人たちにも申し訳がない。

配給会社は映倫と闘って、修正せずにR18指定で公開することにこぎつけました。よかった、よかった。って話でもあるわけですけど、バカバカしいと思いませんか。チンコがちょっと出てくるからと言って、そうまで奮闘しないと、この程度でも公開できない国なんですよ。

だったら最初から日本で公開するのは諦めようとする配給会社もあるでしょう。この映画は熱意ある配給会社に見出されのが幸いでしたが、そういう映画が多数あるんです。私らは法律のせいで損をしていることをちゃんと認識すべきです。

 

明日から公開。詳しくはこちら

 

 

私らは法律のために損をしている

 

vivanon_sentence

トム・オブ・フィンランドは、フィンランドで切手になるくらい評価されていることをこの記事で初めて知りました。日本と同じで、その世界の人たちだけが愛好する存在なのだとばかり思ってました。私も狭い狭い世界で生きてます。

上の切手だけ見ると、差し障りがないですが、これは三枚セットです。

 

 

 

こういう国だから、フィンランドはさしたる苦労をしているように見えないのにPISAで上位なんじゃないか。知らんけど。

こんな切手を日本の脳内海外派に見せたら「海外ではあり得ない」と騒ぎそうです(笑)。「コンビニで販売するな。18禁のアダルト切手にしろ。18歳未満に売るのはもちろん、18歳未満に送っても逮捕しろ」ってか。

なぜフィンランド政府はここまでの表現を切手にしたのか。これこそがトム・オブ・フィンランドだからですし、セクシュアル・マイノリティにとっては、性を生々しく表現することこそが、存在を有効にアピールする方法だからです。

以前も取り上げてますが、ロナルド・ワイツァー編『セックス・フォー・セール』からジョー・A・トーマスの一文を引用しておきます。

 

一般社会は、ポルノを危険視しているが、ゲイ・ポルノであればなおさらのことである。たとえ性革命が変化を作り上げたとはいえ、一般のアメリカ人は、露骨な性描写に対しては、それがゲイの性であれ男女の性であれ、著しい困惑を感じる。ゲイのアイデンティティを主張する為には、ゲイ嫌いが恐れる性行為を正々堂々と白日のもとに晒す以上に効果的な方法があるだろうか。

 

性表現の規制はとりわけマイノリティの存在を否定するのです。

 

 

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