松沢呉一のビバノン・ライフ

「表現の不自由展」では見えないもの、その騒動では見えないもの—「表現の不自由展・その後」のその後(上)-(松沢呉一)

 

 

 

「表現の不自由展」に足りなかったもの

 

vivanon_sentence表現の不自由展・その後」(「その後」がついているのは、2015年の開かれた「表現の不自由展」の続編だからですが、煩雑になるので以降は「その後」を略します)については多数の人が言及しているので、私は自分の持ち場を離れず(刑法175条と刑法175条)、あちらは見物に徹しているつもりだったのですが、気になることがあったので、ちょっとだけ触れておきます。

「表現の不自由展」での作品の選択についての批判をしている人たちもいて、その中には、展示されなかった「表現の不自由」に言及する指摘もあります。

以下は深津貴之「表現の不自由展」の不自由さについて」より。

 

 

僕は慰安婦像置くのは、(表現の視点としては)よいと思うけど、どうせなら慰安婦像とライダイハン像と青線問題のアートを並べておいて欲しかった。そこまで並べてしまえば、「歴史と政府と性暴力と事実認識」に純化したメッセージが出せるのに、慰安婦像だけだと「我が国の体制批判」というメッセージ性が乗っかってしまう。

おんなじように、イスラムへの風刺をしたシャルリー・エブド事件とか、美術館からバルテュスや、ウォーターハウスの絵が撤去されたこととか、身近なところだと、TVでの小人プロレス、チビクロサンボ、コンビニからのエロ本撤廃、アニメの白い謎の光、ろくでなしこさんの逮捕…、芸能人逮捕による作品の回収、過剰なポリコレによる萎縮効果など、様々な文脈が全て切り捨てられている。

これらは、「表現の不自由展」からも見捨てらた表現であって、その非展示こそが、表現の不自由展のもっともロックなところだと(個人的には)思う。なので包括的なボツのリストが見たい。そこに価値がある。

 

※太字は原文ママ

 

筆者は「表現の不自由展」を肯定し、「シリーズ化して欲しい」とした上で、今回の出展内容に対する不満を述べています。

この展覧会は「日本」が範囲として明示されていますから、この筆者が挙げている例のいくつかは最初から対象ではありません。実際には国外で起きたものも出展されていますが、それも日本人作家によるものなので、「日本」「日本人」が条件なのだろうと推測はできます。一方、「今回はほぼ美術表現に絞っての選定」となっていながら、「ほぼ」とあるように、俳句作品も入っていて、厳密な選択条件は存在しなかったようなので、国外で起きた国外の作家作品を入れてはならないということはなかったでしょう。

なお、この俳句作品を入れた意図はよくわかります。公民館の俳句サークルで一位に選ばれ、公民館の月報に自動的に掲載されるはずだったのに公民館側が拒否。憲法を守ることさえ身近な公的機関が拒否するようになっていることに他とはまた別の怖さを感じます。

物理的制約があるので、一度の展覧会ですべてを網羅することははなっから無理な話です。だからこそシリーズ化を求めるしかないのですけど、すでにこれは2回目ですから、シリーズ化されているとも言えます。作品を選択した「表現の不自由展 実行委員会」(津田大介は入っておらず、作品の選定は実行委でしょう)の関心がここに表れていて、筆者が不満に思う点に、実行委は関心が薄いのだろうと思われます。シリーズ化してもおそらく同じですから、足りないと感じたら、そう感じた人たちは別の方法でやっていくしかない。

先に結論を書いておきました。

 

 

三文字で終わらせられた性表現の不自由

 

vivanon_sentenceこの展覧会の企画趣旨説明で幅広い「表現の不自由」に触れられていますので、ここから実際にどんなものが展示されなかったのかを推測できます。

 

いま、日本社会で「あること」が進んでいます。自由に表現や言論を発信できなくなっているのです。その領域はさまざまです。新聞や雑誌などの各メディア、美術館や画廊、各種公共施設、日常生活、路上の活動など。その内容もさまざまです。報道や娯楽番組、天皇と戦争、植民地支配、日本軍「慰安婦」、靖国神社、国家批判、憲法9条、原発、性表現、残酷表現など。その不自由のあり方もさまざまです。検閲、規制、忖度、弾圧、クレーム、NGなど。

 

性表現についてはここに触れられているだけ。刑法175条に抵触した作品、あるいはそうじゃなくても、性表現を少なくとも一点は入れた方がよかったと私も思います。その背景には、問題化する以前に予め法で封じられている表現が多数あることを想像させるためにも。また、「あいちトリエンナーレ」が国際美術展と銘打っていることの滑稽さを見せるためにも。そして、「表現の自由を侵害する者」「表現の自由を侵害される者」は固定的ではなく、時にそれは逆転することを見せるためにも。

 

 

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