松沢呉一のビバノン・ライフ

「正しいセックス」なんてどこにもない—『マゾヒストたち』(2)-(松沢呉一)

新潮文庫から11月に発売予定—『マゾヒストたち』(1)」の続きです。

 

 

 

人間の豊かさを味わっていただきたい

 

vivanon_sentence前回書いたように、読みたいと思う人がそうはいないはずのM男さんたちのインタビューを続けることができたのは「スナイパーEVE」だったからです。普通のエロ本で読者のインタビューを掲載しても読む人はいないですが、マゾ雑誌では読む人がいます。

同性が好きな人たちや自分の性に違和感がある人たちが自身の性に悩むように、マゾの人たちもしばしば悩みます。なんの疑問もなく、やりたいこと、やられたいことをひたすら突き詰めていく人もいますが、多くの場合、とくに思春期に「自分はどうしてこうなんだろう」と悩む時期を経ます。

今はインターネットがその役割を果たしていますが、かつてその正体に気づくきっかけは圧倒的に雑誌でした。SM雑誌を書店や古本屋で見て、あるいは竹薮に捨てられているのを見て、縛られている女の写真やイラストで、「これだ」とわかる。そこから旅が始まります。

最初から「自分はこの女と同じなんだ」と思う人もいますが、とくに若い頃はSかMかが混沌としていて、吊るして竹竿で叩いている男にまず自己投影し、やがて修正されていく人もいます。

この辺の仕組みは複雑で、異性の裸にただ欲情するだけの野蛮な人たちには理解が難しく、「誰に自己投影して、誰に欲情するのか—田中美津インタビューの疑問点 7」を読んでいただくと参考になりましょう。

クラッシュ系ともなると、投影があまりに遠回りだったり、飛躍しすぎだったりで、私もワケがわからなくなりますけど、人間の想像力や転換力はかくも偉大です。

Digitale Bibliothek – Münchener Digitalisierungszentrum

 

 

フードクラッシュ動画はYouTubeでも楽しめる

 

vivanon_sentenceフークラ(フードクラッシュ)の動画は「エロいボディペインティングとエロくないボディペインティングを決定する条件—そろそろ刑法174条(公然わいせつ)と175条(わいせつ物頒布)を見直しませんか?[補足編 2]」にも出しましたが、あれは全裸だったので、まだわかりやすい。錯覚できると言いますか。

以下は先日YouTubeで観ていたフークラものです。頭が割れるくらいに強烈なエロ動画なので、年齢制限がついてます(食い物を粗末にしているとのクレームがつくからかもしれない。ちゃんと食べてますけどね)。

 

 

これが5万再生回数。フードクラッシュのアクセス数は最大でこんなもん。実際にはこの100倍くらいはいるでしょうから、世界のフークラ人口は500万人くらいか。

それらの人以外は、知ろうとしないと、これがエロ動画だとわからないでしょう。なにごとも野蛮な人が世界を理解するためには勉強が必要なのです。なのに、性の分野では何も知らない怠け者たちがいっちょまえに発言していることがいかに多いことか。

この動画のヌキどころはイチゴを潰すところか、自分の足をなめるところかで、フークラが好きな人でも大きく二派に割れそうです。足フェチとフークラが合体している人は後者、食べているところを見るのが好きな咀嚼系は圧倒的に前者です。

食べたものを口の外に出すのが好きな人はまた別の流派です。胃まで入れたのを吐くのが好きな人はゲロマニアです。これらの人たちはこの動画では満足できない。

 

 

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