松沢呉一のビバノン・ライフ

ちょっとした癖が客を遠ざけていた—顔よしスタイルよし性格よしでも指名が戻ってこないヘルス嬢の指導[上]-[ビバノン循環湯 539]-(松沢呉一)

何に書いたか忘れました。「Ping」かな。

 

 

聞き返す癖

 

vivanon_sentence「このコ、いいね」

打ち合わせで立ち寄ったヘルスで、私は壁に出された写真を店長に指で示した。

「でしょ。でも、入って一ヶ月なのに、イマイチ指名が戻ってこないんですよ。スタイルもいいし、性格もいいのに、なぜか全然わからない。一度ついてみてもらえませんか」

よくある依頼である。客として入って、その様子を報告するスパイみたいもんだ。

美波ちゃんはこの日も暇をしていて、そのまま遊んでいくことになった。

「よろしくおねがいします」

美波ちゃんは丁寧に頭を下げた。写真の通りなのだが、写真ほどは印象がよくない。表情がこわばっていて、目を見ないのだ。

個室に入ってもあまり会話が弾まない。耳が悪いのか、すぐに「はっ?」と聞き返す癖があって、このせいでいちいち会話が途切れてしまう。

話を聞いたら、彼女はここが風俗初体験ではなく、今まで三ヶ月ほど別の店にいたという。

「あの店って手コキでしょ」

「はっ?」

「だから、フェラとか素股はないんじゃなかったけ?」

「はい。女のコによってはフェラをしているのもいるという噂もありますけど、私はしてませんでした」

「あの店って流行っているんでしょ」

「はっ?」

「だから、お客さんがいっぱい入っているって聞いたよ」

「お店は流行ってますけど、私は接客がダメなんです」

「接客がダメってことは風俗がダメってことじゃないか」

「はっ?」

「えーと、接客がダメってことは風俗がダメってことじゃないか」

どう言い換えていいのかわからなくて、同じ言葉を繰り返してみた。

「あの店はお客さんはエッチをしたいというより、リラックスしたいタイプが多いんです。だから、落ち着いた雰囲気で、話術の得意な人じゃないと指名をとれない。指名上位は全員二十代後半から三十代ですよ」

美波ちゃんは二十一歳だ。

「でも、ギャルって感じじゃないから、いいんじゃないの?」

「私、人見知りをするので、スムーズに話せないんです」

「今は話しているよね」

「はっ?」

「あのさ、耳悪い? さっきからずっと聞き直しているよね」

私は思いきってそのことを聞いてみた。

「あああ、ごめんなさい、ごめんなさい」

彼女は泣きそうになっている。

「私、緊張すると、聞き直す癖が出ちゃうんです。聞こえているんですけど、なんか、そうしないと間がとれなくて。気になりましたか?」

「はっ?」

真似してみた。

「あ、真似しないでください。イヤなカンジですね」

「でしょ。他の言葉で代用できないのかな。“はい”と言った方がいいと思うぞ。“違う”と思っても、いったんは“はい”って言ってみなよ」

「はっ? じゃなくて、はい」

これは取材でもなんでもないのだから、緊張する必要はない。いつもこうなのだ。なるほど、これでは指名されないかも。もったいないなあ。

Beautifully posed and tinted woman

 

 

本当にイクことってあるんですか?

 

vivanon_sentenceともあれ、第一関門はクリアしてシャワーに移動。

 

 

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