松沢呉一のビバノン・ライフ

監禁系マゾヒストのファンタジーと現実のズレ—『マゾヒストたち』(7)-(松沢呉一)

ファンタジーのウンコと現実のウンコは違う—『マゾヒストたち』(6)」の続きです。

このシリーズは全体の流れや構成を考えて始めたわけではないので、話があちこちに飛びます。ご了承ください。

 

 

 

監禁願望のある人々

 

vivanon_sentenceSMバーにはよく檻があります。檻の中は外から丸見えの個室になっていて、その中で飲める店もありますし、雰囲気作りの装飾だったりもするのですけど、城の地下室に幽閉されたいとか、誘拐されて監禁されたいといったファンタジーをもっているマゾヒストは男女ともに多いのです。

マゾ性が強いと言っても私は個人プレイなので、はっきりとした他者を必要とせず、監禁願望は全然ないですが、子どもの頃は自分で自分の手首を縛って、押し入れにセルフ幽閉されるのが好きでした。誘拐されるファンタジーも間違いなくありました。誘拐され、監禁されて、誰も助けてくれず、一人で餓死していくことの絶望。10分も押し入れの暗がりにいると飽きますし、小腹が減っておやつを食べますので、餓死まで至れなかったですが。

自分では胎内回帰願望だったのではないかと解釈しています。段ボール箱の中に閉じこもったり、ベッドの下に潜り込んだりするのと同じで、狭くて暗い場所が好き。

小学校の高学年になる頃にはやらなくなったと記憶しますが、大人になってもあれが好きな人たちがいるわけです。あるいは子どもの頃から培ったものではなく、女王様との関係が深まって、生殺与奪をすべて任せ切って一切の抵抗を放棄した状態に性的興奮を得る。

しかし、このファンタジーはなかなか実現が難しい特性があります。女王様だって、金を稼いでも来ない奴隷を檻に閉じ込めて、世話をする余裕はなかなかない。店のプレイでやろうとすると、一週間で100万円くらい出す必要がありましょう。餌を与えるだけで、あとは放置でいいんだったら、その数分の一で済むかもしれないですが、糞便の処理が面倒ですし、檻の置き場にも困ります。

そのファンタジーを実現しているのがヤプーズマーケットです。その様子を撮影してDVD化しているAVメーカーです。

※図版はヤプーズマーケットのサンプルより。以下同

 

 

現実との闘いに破れて逃亡したヤプー

 

vivanon_sentenceファンタジーのウンコと現実のウンコは違う—『マゾヒストたち』(6)」で、ヤプーズマーケットの山田龍介代表が言っていた話を紹介しました。ファンタジーとして監禁願望のある人は多いのですが、現実になると耐えられないのだと。

本人は承諾していて、それこそを望んでいるのですが、ギブアップをしない限り、何日間も檻の中での生活です。撮影のある時間は檻の外でいたぶられ、撮影のない時間は監禁用マンションの小さな檻の中で一人っきりです。「もし今火事になったり、地震が来たらどうなってしまうんだろう」と不安になってくるのが定番です。下着しか着てないので、風邪をひいて体調が悪くなると、「このまま死んだらどうしよう」と不安になります。

ファンタジーの中では火事も地震もなく、体調も悪くなりませんから、いざ監禁されてみて、初めて現実の厳しさを知ります。そしてギブアップする。考えればわかるだろうということなのですが、自分勝手なのがファンタジーです。

マゾヒストたち』のインタビューに、逃亡したヤプー(ヤプーズマーケットの作品に出演するマゾをこう呼ぶ)のエピソードが出てきます。監禁と言っても、時に皆で一緒に外で食事をするので、その気になったら逃げられたりするわけですよ。ギブアップすればいいのですが、それは悔しい。チャレンジャーであることに付随して、マゾは案外負けず嫌いです(他人のことはどうでもいい人もいますが)。

この彼は金も持っていないのに監禁3日目で逃げて、そのまま行方不明になりました。東京の人ではないので、歩いて帰れるはずはなく、交番だって千円くらいしか貸してくれないでしょう。

どうしたのかわからないまま、彼はいつの間にかまた上京し、ヤプーズマーケットの近くに住んでいるらしいと山田龍介は語っています。

インタビューではそこで話が終わっているのですが、この話には後日談があります。

※狭すぎると思うでしょうが、たぶんこのくらいの方がファンタジーとしては苦しくていいと感じる人が多そうです。

 

 

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