松沢呉一のビバノン・ライフ

性風俗店で写真指名をしない方がいい理由+鏡とエロの関係—『マゾヒストたち』(8)-(松沢呉一)

監禁系マゾヒストのファンタジーと現実のズレ—『マゾヒストたち』(7)」の続きです。

このシリーズは全体の流れや構成を考えて始めたわけではないので、話があちこちに飛びます。ご了承ください。

 

 

 

芸人セクシー川田の教え

 

vivanon_sentence前回見たマゾヒストのファンタジーに基づく現象は、規模や出方は違えども、マゾではない人たちも体験をしているはずです。それを確認していきましょう。

お笑い芸人のセクシー川田はデリヘルが好きで、自身、出張ホストにも登録しています。その経験に基づいたデリヘル・ネタで、「指名をするな」という教えがあります。これは正しい知恵です。

私もどこかの原稿で同じ趣旨の話を書いています。私は馴染み派なので、気に入ったら本指名しますし、店舗に行って、その時にいる子の中から選択することはよくありましたが、何日も前から写真やプロフィールを吟味すると失敗する率が高い。妄想が膨らむからです。自分で作り出したファンタジーは素晴らしすぎて、どんな現実も勝てないのです。

100点からスタートすると、どんなに美人でも、どんなに性格がよくても、どんなにテクがあっても、あとは減点していくしかない。ガックリの連続。ゼロからスタートすると加点していくだけですから、誰が出てきても楽しい。

店舗に行ってから写真指名する場合でさえも、この小規模なことが起こります。写真と全然違ってかわいくないということももちろんあるのですけど、見た目通りだとしても、わずか5分10分の間にファタンタジーが作られてしまうのです。これは軽度ですから、「思っていたのとは違ったけど、いい子だな」と簡単に修正していくことができますが、理想を言えば本指名以外の指名はしないというのが賢明であり、「いますぐつける子で」という客が店にとってもありがたいし、見た目が芳しくなくて暇をこいている子も嬉しい。セクシー川田の教えは正しいのです。

この話は、前回見た「ヤプーたちが長年にわたって飛躍させてきたファンタジーが現実の苛酷さに直面して崩壊する話」を短時間で行なっているのだと言っていいでしょう。

もっと短時間で発生するファンタジーもあります。バックシャンなんて言葉があるように、後ろ姿が抜群にいいのに、振り返ったらガックリなんて話がよくありますよね。正面から先に見ていたら、「スタイルがいいな」と素直に評価できたのに、後ろから見たがために100点から始まってしまったと言えます。

人はどうしてもファンタジーを作り出してしまい、そのファンタジーに欲情しているのです。

※2019年7月21日に行なわれたT-1グランプリに出演のセクシー川田。ライトで顔が飛んでます。こんな写真しかなくてすいません。

 

 

目の前の現実よりファンタジーで欲情する現象

 

vivanon_sentence自分のタイプではない相手とセックスをすることになった時に、あるいはタイプだと思っていたら体が合わなかったり、テクがなかったりして、全然気持ちがよくない時に、他のエロいことを想像するって話がよくあります。

飽きた相手とする時に、別の女、別の男のことを想像することは多かれ少なかれあるんじゃないでしょうか。女の歌手が歌う曲でもそんな歌詞があったと記憶しますが、誰のなんという曲か忘れました。

ためしに検索したら、こんな記事が出てきました。

 

2015年2月28日付「マイナビウーマン」(オリジナルが見つからないので、exciteニュースより)

 

 

2割しかいないのか。1回でもしたことがある人も入れると、大半がしたことがあると思ってました。

男はもっと多いと思います。「この状況では無理」「疲れていてチンコが立たない」ということがあって、勃起しないと話にならないので、こういう時はファンタジーの出番です。目の前の裸より、ファンタジーの裸、ファンタジーの物語の方が扇情的です。

ゲイがゲイであることを隠して女とつきあう場合は、ケツだけ見て男のケツだと思い込むこともあるでしょうし、器用なマゾは、本当はしたくないのに、女王様に命じられてこんな女とセックスする苦行だと思い込むこともありそうです。

世界はファンタジーで回ってます。

 

 

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