松沢呉一のビバノン・ライフ

社会問題に対するアプローチも変わった—メディアをめぐる不可解な現実[9]-(松沢呉一)

誰の影響も受けずに好きなものを聴ける幸せ—メディアをめぐる不可解な現実[8]」の続きです。

 

 

 

薄く食いつくから話題になる

 

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ここまで見てきた音楽の聴き方によって、それぞれがそれぞれの好きなジャンル、好きなミュージシャンに踏み込むようになった分、こだわるところが違ってきて、聴くものが分散します。

それでも億単位の再生回数になるものは多くの人が認識するようになりますが、興味が分散した時にヒットするのは、薄い層が食いついた時です。

チャイルディッシュ・ガンビーノ This Is America」も億単位の再生回数です。

 

 

 

 

あれはおもに映像の話題性であり、ヒップホップを超えてクリックされた結果です。あれだけ話題になったのに、6億再生回数に留まり、記録的な数字ってわけでもない。YouTubeの歴代トップ100位には入るかもしれないけど、50位には入らないのではなかろうか。確認していないですから、わからんですけど。

あの曲で私もチャイルディッシュ・ガンビーノを知って、他の曲も聴きましたが、興味はそこどまり。私のこの曲に対する、あるいはチャイルディッシュ・ガンビーノに対する理解は薄い。チャイルディッシュ・ガンビーノに限らず、ここまでに出てきたシーア、アデル、リアーナ、シャキーラ、アリアナ・グランデもすべて薄い。そこまで人気があるわけではないケルリはそこそこ詳しいですけど、聴ける時間に限りがある以上、詳しいのは一部になります。

その範囲が膨大になった分、インターネット以前よりこの傾向が強まってます。

チャイルディッシュ・ガンビーノについてはヒップホップに深く踏み込んでいる人以外、理解は薄い。話題になるものは薄く食いつく層が支える。

あそこまで話題になると、テレビや週刊誌、スポーツ新聞が取り上げてもいいわけですが、ここで一歩踏み込んで、最近のヒップホップ事情を解説したり、チャイルディッシュ・ガンビーノの経歴を詳しく紹介すると、そこまでは興味がないので観ないし読まない。ヒップホップやチャイルディッシュ・ガンビーノに詳しい人たちにとってもいまさらの話になってしまい、「取り上げるならもっと正確に詳しくやれよ」ということになって、誰も歓迎しない。

つまり、テレビが深く踏み込めなくなっているのは、その上澄み部分を次々と取り上げるためであり、それぞれが薄い関心ばかりになっているのではなく、むしろ、それぞれが深く関心を抱けるようになったために、興味や知識が細分化してしまった結果とも言えます。

 

 

光州と香港

 

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私自身、完全にこの時代の音楽の聴き方になっていて、バルカンの音楽に浸っている時、あるいはエチオピアの音楽に浸っている時は他は聴かない。数日という単位でなく、数週間という単位で同じジャンルを聴き続けます。チラッと聴いただけでは面白さがわからないのです。

カラオケ用にJ-POPの最新曲を探して練習している時は他を聴かない。つうか、カラオケの練習をする時は他のことをしないで、それだけに集中します。

カラオケの練習以外、私にとっての音楽は「ながら」ですから、それだけのために時間はさほど使ってないですが、音楽に限らず、あらゆるジャンルにアプローチができる時代には、特定分野に深く踏み込むと、どうしても他が薄くなります。

昨年末からナチスのことばかり考えて、他のことに興味が向かなくなったようなものです。もっぱら本で理解を進めていったのですが、インターネットも大いに役立ちました。あそこまでハマったのはインターネットのせいです。本に出てくる人名を見て気になると検索する。そこからまた別の興味が出てくる。これの繰り返しでした。

こんなことをしていたから、他のことがさっぱりわからなくなりました。踏み込むことは他を諦めることでもあります。

そして、今は香港のことばかり。

インターネット以前から私はそうなりやすく、大学時代はさまざまなことに興味を抱いていて、その中に韓国の民主化運動がありました。しかし、テレビではまずやらない。「11PM」が取り上げたことがあったかもしれないくらい(「11PM」はお色気ものだけをやっていたのではありません)。

雑誌では「世界」がT・K生「韓国からの通信」を連載してましたし、「朝日ジャーナル」も取り上げることがあったと思いますが、あとは書籍です。今は朴正煕や朴槿恵の伝記を出している晩聲社ですが、当時は民主化運動の本を多数出していて、そのほとんどを読んでました。とくに光州で何があったのかを知るために、貪るように読みました。

白竜「光州City」も買いました。

 

 

※「光州City」は発売中止となり、自主制作盤として発売されました。キーボードは小室哲哉。当時はレコード会社が音楽に政治を持ち込むことを嫌いましたが、今はそれが国民全体に拡大

 

 

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