松沢呉一のビバノン・ライフ

誰の影響も受けずに好きなものを聴ける幸せ—メディアをめぐる不可解な現実[8]-(松沢呉一)

CDもカラオケも衰退し、YouTubeが支配する—メディアをめぐる不可解な現実[7]」の続きです。

 

 

「不屈の民」を通してチリから香港へのエール?

 

vivanon_sentence9月28日にあった雨傘運動5周年集会の中継を観ていたら、反送中運動の映像が流れ、そのBGMは広東語版「不屈の民」でした。

この映像自体はその時点でYouTubeで探せなかったのですが、曲はYouTubeにありました。

 

 

 

ヘルメット、防塵マスク、ゴーグルのフル・ギア・ヴァージョン。今年の8月ですから、反送中運動が始まってからの投稿です。

曲タイトル「自己人! 團結唔會被打沉!」の「自己人」は「身内」を指します。通常は「家族+親友+恩人」といったところですが、この場合は「同志よ!」というニュアンスでありましょうか。「同志よ! 団結した人々は負けない」。原タイトル「El pueblo unido jamás será vencido」に近い。

YouTubeでは、これに続いて、チリのグループInti Illimaniの演奏が流れました。

 

 

 

無数の人々に演奏されてきたこの曲が200万再生回数。これもまたジッと観てしまいました。

途中で解説を見て、「えっ!?」と思いました。この映像は2014年のものなのですが、解説に広東語版の歌詞とクレジットを加えているのです。解説部分はあとで書き替え可能ですから。

 

 

この曲の母国から香港へのエールです。この映像を出しているのはアルゼンチンのテレビ番組ですので、チリからではなく、アルゼンチンからかもしれないけれど、「不屈の民」が、遠くに住む、おそらくは会ったこともない人々をつなぎ、それを日本にいる私が知って感涙する。

と思ったのですが、翌日には漢字は消えて、スペイン語になってました。キャッシュの異常で起きたようです。おかげで感動できたのですが、幻の感動でした。

 

 

誰の影響も受けずに自分の好きになものにアプローチできる

 

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こうやって自分の聴きたいものをすぐさま探せて聴ける。その上、ほっといても、YouTubeが情報を教えてくれる。いい時代だなあ。

今の時代は、レコード会社にも雑誌にも評論家にも友だちにも影響されずに自分の好きなものを探せます。「渋谷陽一推薦」「ミュージックマガジンで話題」「オリコン連続4週1位」というコピーは不要。金がかからないのですから、聴いてみて自分で判断すればいい。音が欲しければiTunesなりなんなりで買えばいい。

こうなってくると、「自分の好きなものを理解してくれるのはYouTubeだけ」みたいなことになってきます。金玉をGoogleに握られていることの気味の悪さはあるとしても、私はこの状態が心地いい。

私は思い出話をあまりしないため、中野ブロードウェイにあるタコシェを利用しているのに、私と青林堂の親会社であったツァイトが始めた店であることを知らない知人がけっこういて、そのことを知って驚かれるのですが、あの店は、私が構想していた店と「ガロ」ショップ構想が合体して誕生しました。今は金がない時に絵や本を売るくらいで、経営にはノータッチですけど、タコシェを始めてから感じたことがあります。

ヒットチャートみたいなものはくだらない。売れているものを買うのはくだらない。誰かのお墨付きがなければ買えないのはくだらない。中野タコシェを始めたのはそういう思いからです(最初は早稲田、次が高円寺、そして中野)。そういった枠組みからはじかれたものを集めたい。ところが、その思いは半ば裏切られたところがあります。

 

 

 

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