松沢呉一のビバノン・ライフ

電話番号を覚えなくてよくなったことと覚えられなくなったことの関係—メディアをめぐる不可解な現実[12]-(松沢呉一)

政治や社会問題よりペットやグルメの話が好まれる構造—メディアをめぐる不可解な現実[11]」の続きです。

 

 

 

毎日新聞社「読者世論調査」の数字を確認

 

vivanon_sentenceデータで確認するインターネット支配と既存メディアの凋落—メディアをめぐる不可解な現実[10]」で、メディアとの接し方に関するデータを見ました。NHK放送文化研究所世論調査部「情報過多時代の人々のメディア選択」、博報堂「メディア定点調査」2019年版ベネッセ教育総合研究所「子どもたちの読書活動の実態に関してのいずれも、若い世代ほど印刷物離れが進んでいることが確かめられました。

ああいう数字を見ると、上の世代には「若いヤツらはもっと新聞や本を読め」と言いたくなるのがいるのでしょうけど、半世紀ほど前の50代、60代と比して、今の50代、60代は同じ程度読んでいるのかどうかが気になって、古い資料を探してみました。ずいぶん前から「読書離れ」「最近の若者は本を読まない」と言われてますが、その時代の若い世代が歳をとると本を読むようになるのか。

毎日新聞社は毎年「読書世論調査」を行なっているのですが、古い細かなデータがネットでは読めないので、30回目の調査が行なわれた翌年の1977年に、同社が30年間の調査をまとめた『読書世論調査30年』を調べてみました。

これは大部の本で、表も細かく、数字をすべて抜き出すのは困難なので、50代男性が一日に費やしている時間を比較してみました。

以下の数字は1974年のものです。

 

書籍・雑誌 33分

新聞 44分

ラジオ 23分

テレビ 131分

 

以下は博報堂「メディア定点調査」2019年版の数字です(小数点以下切り捨て)

 

雑誌 9分

新聞 18分

ラジオ 42分

テレビ 157分

 

こちらは書籍の項目がないので比較できないとして、同じ50代の数字を比較すると、44年間で新聞は半分以下に、ラジオとテレビは増えてます。とくにラジオが大幅に増えているのが意外でした。これは若向けだったラジオが中高年向けにスライドしたためでしょうか。

テレビばっかり見ている昨今のおっさんたちの姿が見えてきます。「おっさんたちはもっと新聞や本を読め」。

同じ年の16歳から19歳の数字を抜き出してみました。

 

書籍・雑誌 56分

新聞 27分

ラジオ 85分

テレビ 132分

 

同調査の50代とテレビの時間はほぼ同じですが、ラジオは50代の3倍以上聴いています。とくに夜の時間帯は若向けでしたから。また、この頃は若い世代の方がうんと本や雑誌を読んでいます。

以下はベネッセ教育総合研究所「子どもたちの読書活動の実態に関してより、現在の高校3年生の数字(小数点以下切り捨て)。

 

テレビ・DVD 62分

本 13分

マンガ・雑誌 11分

新聞 3分

 

新聞が9分の1になっていることが際立ちますが、DVDを入れてもテレビは半分以下に。本とマンガ・雑誌を合わせても書籍・雑誌の半分以下に。この差は携帯電話、テレビゲーム、PCに流れているわけです。

補足終了。これだけ変化しているのですから、さまざまなところに影響が出るのは当然です。

※下の書影は『読書世論調査・学校読書調査 2019年版』(毎日新聞社)

 

 

ナンバーを記憶する人と記憶しない私

 

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では、今回の本題。

先日、交通事故を目撃しました。正確には事故の瞬間は見ておらず、デカい音がしたので、「なんだなんだ」と反対車線を見たら、白い車がスピードを落として停まるところでした。パンクかと思ったのですが、その20メートルくらい先(車にとっては後方)で自転車が倒れてます。自転車をひっかけたのか。

自転車の男は無事で、車の方に歩き出したのですが、ひとたび停まっていた車は、そのことに気づいてか、勢い良く発車して逃げ出し、自転車の彼が走って追ってもまったく追いつけず。ひでえ。

自転車の彼が戻ってきたところで、「証言しますよ」と声をかけて、パトカーを待つことに。あそこで逃げるようなヤツだと、捕まっても「ぶつかったことに気づかなかった」とすっとぼけそうだと思いまして。

倒れた自転車を見て、「アレ?」と思いました。向きが逆なのです。ひっかけられた勢いで向きが逆転したのかと思って彼に聞いたら、舗道に乗り上げる場所を探して逆走していたそうです。

おそらく車の運転手は逆走する自転車に腹が立ち、その嫌がらせとして車を寄せすぎて衝突したのでしょう。自転車にあおり運転。自転車だって逆走は感心せず、逆走に腹が立つところまではわかりますが、逃げちゃいかんです。あおり運転に厳しいこのご時世ですから、ヤバイと思ったのかもしれない。でも、逃げてはいけない。

自転車の彼は足に擦り傷を負っている程度で、自転車も見たところ大きくは損傷していなかったのですが、ペダルに貫かれる形で車のパーツが見事に残っています。あんなヤワなパーツがどこかわからないですが、激しく衝突したことがわかります。運転手はまさかこんなパーツを残したとは思わなかったのでしょう。

彼はベンツだったのではないかと言い、私はパッと見で車種がわかるほど車に詳しくなく、車体が白かったことしかわからなかったのですが、もう一人目撃した人がいて、その人によると、車種はプリウスで、ナンバーの一桁目の数字まで覚えてました。私の立場がない(私は道路の反対側にいたので見えにくかったということもあるのですが)。しかし、彼も明らかに逃げたと言っていて、二人目撃者がいれば完璧。

※NTT-BJ「電話番号に関する意識調査」より

 

 

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