松沢呉一のビバノン・ライフ

SMで知る「全人類に通用する心理と行動の原理」—『マゾヒストたち』[無料記事編 11]-(松沢呉一)

『マゾヒストたち』への批判の声・不満の声—『マゾヒストたち』[無料記事編 10]」の続きです。

 

 

表層の行為では内面まではわからない

 

vivanon_sentenceクラッシュ系に限らず、SMは人間を知るためにはとてもいい素材です。

たとえばここに女王様に鞭打たれて歓喜の声を上げているM男のAとBがいます。外に表れ出る行為はまったく同じだとしても、内面はまるで違っていることがあります。

Aさんはただもう鞭で打たれるのが好きな鞭マニアです。どこのSMクラブに行っても叩き方のうまい女王様であれば満足できます。他のプレイは不要で、鞭さえあればいい。SMパーティで、どこの誰かもわからない初対面の女王様に叩かれても嬉しい。

一方、Bさんは鞭打ちが好きではありません。特定の女王様が好きなのです。その女王様がやりたいことであればすべて受け入れる。鞭だけを取り出すと痛いだけですが、その女王様がやりたいことを受け入れることが自分の満足につながります。だから、他のプレイもすべて受け入れられます。しかし、見ず知らずの人にされても嬉しくない。SMパーティにも行かない。「女王様ありき」「関係ありき」なのです。この前提が存在している時には、むしろ自分の嫌いなこと、苦手なことをされることにこそ高まりが生じることがあります。

とくにこれが顕著に出るのはスカトロです。略称スカですが、スカの人たちはウンコ自体が好きです。SMの黄金プレイを希望するM男でも、そういうタイプはいるのですが、時にウンコに対する嫌悪が前提になります。「不潔で気持ち悪いけれども、この女王様の黄金だったら食べられる」というように、嫌悪があるからこそ、受け入れることに意味が出ます。

この両者はまったく別なので、混同すると怒られるという話は『マゾヒストたち』にも書いた通り。

※参考までに一本鞭の破壊力を御覧下さい。これはスポーツウィップです。女王様でもやっている人がいますが、SMとは関係のないスポーツです。目的物をはじいたり、鞭で音を出したり、ダンスと組み合わせるなどのワザがあります。SMではこんな長い鞭は使わないので、ここまでの破壊力はないですが、短くても先が細いため、一発で血が滲み、場合によっては骨が砕けます。通常のプレイでは表面積が大きく、その分衝撃が少なく、肌が赤くなる程度のパラ鞭を使用することが多いのですが、一本鞭を所望する人たちもいます。

 

 

 

 

SMマトリックスの極意

 

vivanon_sentence女王様であり、パフォーマー、プロデューサーとしても活躍の月花さんからSMの話を聞いたカウンセラーの尾谷幸治さん(現在は医学部の大学院にも通っているみたい)は、SMには人間行動を理解する鍵があると見抜いて、SMマトリックスという人間を解釈する指標を編み出しました。SMとついているのはそのきっかけに過ぎず、すべての人間に適用できる普遍的な論です。

たとえば身を粉にして働いている会社員がいるとして、表面的には同じ行動をとっていても、Aさんは仕事そのものが好きでやっています。対してBさんは上司のためにやっていて、仕事自体は嫌いだったりもします。内面は全然違うのです。

Aさんは誰かに褒められなくても、自分自身の達成感で満足します。Bさんは上司に認められることで満足できますから、結果が出てなくてもいい。

Aさんは上司が誰であろうと、自分の納得できる仕事ができればいいのですが、Bさんは尊敬できる上司がいなくなったら、やる意味を見失って、仕事ができなくなったりするわけです。

内面は違うのに、表層を見ると、「真面目で仕事熱心」という同じ分類に入れられてしまいがちですが、尾谷さんはその行動を司る原理からふたつを分けて考え、ここから人間の心理と行動によって分類するテストを開発しました。これがSMマトリックスです。

SMの世界でも、エゴマゾ、ピュアマゾといったような分類はなされているのですが、ここに人間行動の真理があると見抜いたのが彼の慧眼です。SMを自分に関係のないこととしてとらえ、不潔だのけがらわしいだのと蔑視する凡庸で浅薄な人間には決して到達できません。自分の理解できることが世界のすべてだと思うような低劣な人間は政治家になってはいけないし、教育家にも指導者にも向かないでしょう。

マゾヒストたち』は人間を解釈するためのすぐれた参考書です。自画自賛。

続きます

 

 

以下はテンプレです。

 

 

 

世界はマゾでできている—松沢呉一著『マゾヒストたち』(新潮文庫)発刊記念

マゾしか出ません!!

 

 

 

本年5月をもって休刊となった「スナイパーEVE」で連載していた「当世マゾヒスト列伝」が『マゾヒストたち』として新潮文庫に登場。

18人の選び抜かれたマゾ男の精鋭たちのインタビューとコラムで構成された希有なM男たちの肖像。
その発刊を記念して、マゾヒストたちの生の声を聞きます。

女王様がいてのM男ですが、女王様は出ません。
M男が主人公のイベントです。

 

【出演】
松沢呉一(生活マゾ)

【スペシャルゲストのマゾたち】
クニオ(露出・身体改造・性豪・包茎自慢の変態)
山田龍介(元キックボクサー・ヤプーズマーケット代表)
紅葉(盲目のピアニスト・マゾ)

予定していたゴン太さんは欠席となりました。その代わりに変態界の大物が急遽出演決定。『マゾヒストたち』には登場しない人物ですので、当日までお楽しみに。

※本イベントは16禁です。15歳以下の方はご遠慮ください。

 

 

【会場】

高円寺パンディット

☎︎090-2588-9905


 

【日時】

2019年11月17日(日)

開場/ 13:00
開演/ 13:30

2時間半程度を予定しています。

 

【参加料金】

<お得な本付き料金>

前売 ¥2,500  当日 ¥2,600

<本なし料金>

前売 ¥2,000 ¥当日 ¥2,500

※いずれもドリンク別です。

予約はパンディット(二種の予約は入口が別になってます)

またはFacebookのイベントページで「参加予定」をクリックするだけで予約扱いになります。当日、どちらかを選択のこと。

 

ゲストのプロフィール

 

クニオ 思春期から裏山でセックスを始め、十代でストリップ劇場の楽屋まで出入りするように。以来、全国のストリップ劇場を回り、同時にトルコ風呂にも行くようになった。自身がマゾという自覚はないが、性器に傷をつけて黴菌をつけて化膿させるのが好きで、SMショーにもMとして出演している。自身が身体改造マニアという自覚はないが、ピアスを体中に入れて銭湯に通っている。包茎が自慢で、包茎サークルのメンバーでもある。

山田龍介 ブロのキックボクサーだったが、マゾに目覚めて、名古屋の北川プロのビデオにデビューし、多数のビデオに出演。最多本数に出たマゾ男優かもしれない。結婚し、子どももいたが、家庭を捨てて、マゾとして生きることを決意して上京。浅野ナオミ女王様の奴隷として軟禁生活を送ったあと、監禁専門ビデオメーカー・ヤプーズマーケットの代表に。同社の出演者はヤプーと呼ばれ、経営者・制作者にしてヤプー0号として出演もしている。

紅葉(もみじ) 幼少期に事故で両眼を失明。盲学校に通いながら、ビンタをされたい願望が高まる。数学専攻で国立大学に進んだあと、ピアノの勉強のため、ポーランドに留学。帰国後、自身の欲望を抑えられず、単身、SMクラブに乗り込み、数学、ピアノに続いてマゾとしての実践を開始、V&Rの作品に出演してマゾ男優としてデビュー。本に掲載されたインタビューの段階では独身だったが、その後、結婚。当日はマゾの結婚生活についても聞けるはず。

 

 

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