松沢呉一のビバノン・ライフ

捨てられていくエロ資料—差し押さえ現場で出てくるお宝-[ビバノン循環湯 550] (松沢呉一)

これはメルマガに書いた原稿。この差し押さえの仕事をしているのが誰だったか忘れてしまった。

 

 

残されているエロ物件

 

vivanon_sentence税金の滞納や借金のために差し押さえになる人たちがいる。裁判所の差し押さえ命令が出ると、差し押さえをやる専門の業者がある。毎日、そんな仕事があるわけではないから、その度に人を集める。

先日、その仕事をやっている人物に会った。普段は別の仕事をしていて、召集がかかると出かけていく。

「金持ちなのに税金を払っていない」「今まで景気がよかったのに事情の失敗で借金をこさえた」なんてこともあるし、いきなり亡くなったために会社が潰れて家を差し押さえられることもあるわけだが、たいていは金目のものはすでに売り払っているか、そういったものを持ち出して夜逃げをしたあとだから、多くの場合、競売にかけられるようなものは何も残っていない。

夜逃げの場合は、身の回りのものをほとんど残して、ボストンバッグひとつだけ持ち出す。金目のものはないにしても、生活の痕跡がそのまま保存されているだけに面白くはあるらしい。持ち主を直接は知らないため、妙な感慨などなく、純然たる好奇心で楽しめそうだ。

「よくエログッズが出てくるんですよ。バイブとか、DVDとか」

夜逃げする時や亡くなった場合は捨てる間もないのだろう。

「大学の先生で、専門書の中がくり抜いてあって、そこにホモ写真が入っていたり」

「えっ、それはどうなるの?」

「所有者が消えてしまっている場合は大家も困ってしまうので、全部ゴミとして産廃業者がもっていきます」

イタリア語版Wikipediaより古いコンドームのパッケージ

 

 

捨てられていく貴重なエロ資料

 

vivanon_sentence金目のものがないとなると、あとは産廃業者の出番になるので、しばしば彼らは同じ現場に居合わせる。

産廃業者はそれを仕分けして古道具屋に売るような手間をかけないため、競売にかけるものを外した残りを彼らが持ち出すことは可能なんだそうだ。おそらく解釈としては、いったん産廃業者にすべて価値のないものとして引き渡されて、そのゴミを産廃業者から譲ってもらうということなのだろうと思われる。

裸の写真を競売にかけることはないし、かけても誰も入札しない。したところで競売にかける経費の方が高くなる。

「とっといてくれよ」

「そんなもん、欲しいですか」

「欲しい、欲しい、ムチャクチャ欲しい。エロ写真はホモでもレズでもノンケでもイヌでもサルでも欲しい」

「わかりました。今度出てきたら、確保しておきます。つい最近はお菓子のブリキの空き缶の中に、コンドームがいっぱい入っているのが出てきました。厚紙で仕切がしてあって、ちゃんと分類してあるんですよ。なんだろうと思って書き込みを見たら、ラブホテルからコンドームを持ち帰って、それをわざわざ整理してコレクションにしているんですよ」

「えっ、それはどうなったの?」

「だから、産廃業者がもっていきましたよ」

「それもとっといてくれよ」

「そんなのまで欲しいんですか」

「欲しい、欲しい。当たり前だろ。そのコレクションを真似しようと思ったら、どれだけの金と手間と時間がかかると思うんだ」

 

 

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