松沢呉一のビバノン・ライフ

「変態資料」に掲載された大泉黒石訳「尼地獄」の虚実-[ビバノン循環湯 560] (松沢呉一)

「スナイパーEVE」の連載に書いたものです。掲載時は小説か実話かもわかっていなかったのですが、今回、元ネタを探して完成させておきました。

 

 

 

実話か? 小説か?

 

vivanon_sentence変態資料」7号(昭和2年4月発行)に大泉黒石訳「尼地獄」という文章が掲載されてます。大泉黒石は、ロシア人の法学博士アレクサンドル・ステパノヴィチ・ヤホーヴィチとロシア文学研究家の本山恵子の間に生まれ、ロシア文学者、小説家として活躍した人物です。また、怪優・大泉滉の父親としても知られます。

この「尼地獄」は1836年、ニューヨークで刊行された「恐ろしき尼院生活の曝露」という本の抄訳です。冒頭に「小説であると思われないように望んでいる」との一文があり、モントリオールの「オテルデイユ尼僧院」と舞台となった寺院の名前まで出ていますが、実話なのか、実話に見せた小説なのかはっきりしません。

この本はその尼僧院から脱出してきた少女が書いた手記、あるいはそういうことになっている小説です。

このカトリック尼僧院は、老尼長の絶対的な支配下にあって、尼僧たちは日々苦業(ペナンス)を与えられています。これを耐えることによって、自分たちの中にある罪悪が亡ぼされると信じ込まされていて、尼僧らはこれに従うしかありません。

床に接吻することはもっとも軽い苦業で、他の尼僧の足元に跪いて足に接吻する、豆の上に跪き、その豆を靴の中に入れて歩かされる、跪いて道路を歩かされる、尼長の足を洗った水を飲まされる、首を縄で巻いて食事をするといったようにエスカレートしていきます。

その食事もニンニクだったり、ウナギだったり。ウナギを食えるんだったらいいですけど、ウナギは獣の死体を食べていることを知って、尼僧たちが嫌がっているために食べさせます。

さらには細い鞭で、血が出るまで肉を打ち砕かれ、熱い鉄の棒で烙印をつけられ、窓ガラスの破片を綺麗な粉末になるまで噛み砕くことを要求され。金属の針を植えた革製のベルトを腰や腕にくくりつけられる。

こうなると、さすがに尼僧たちは抵抗をし、泣き叫びます。しかし、そうすることで今度は別の責め苦が準備されています。お仕置きです。

四十から五十種類も猿轡が用意されており、泣いたり、叫んだりした尼僧には、この猿轡の刑が待っています。

※床に接吻をさせられている挿絵(「変態資料」ではなく、原書から)

 

 

歯向かう者は消される

 

vivanon_sentence筆者も手向かったため、針のベルトで縛られ、針が体に食い込み、猿轡からも血が垂れるような状態で密房に閉じこめられ、救いを請い、服従を誓ってやって放免です。

指導的尼僧の中にはこれを愉しんでいるのもいて、サディストの集団なのです。

この世界に馴染めない尼僧は消えるしかない。外に出ることはできないので、自殺をするか、自殺をしたということで処分されます。

では、どうしてこの筆者は逃げることができたのでありましょうか。それはわかりません。

この話は次号に続くということになっているのに次号にも、その次の号にも出ていません。

これに限らず、「変態資料」はアバウトな雑誌で、連載のはずなのに、一回で終わってしまうものがあります。ページ数も号によって違い、「集まったものを掲載する、間に合わなかった原稿は掲載しない」ってことになっていたようです。

そのために、この話がどう続いてどう終わるのかさっぱりわからないのです。続きが読みてえ。

 

 

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