松沢呉一のビバノン・ライフ

猫町倶楽部での質問[1]/M女は本にならないの?—『マゾヒストたち』(13)-(松沢呉一)

ある日突然マゾになる—『マゾヒストたち』(12)」の続きです。

 

 

『マゾヒストたち』でも「ビバノン」でも説明していなかった点

 

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1月13日の猫町倶楽部の読書会で気づいたこと、考えたことについては、まだ詰め切れていないところがあるので、先にあの場で出た質問について書いておきます。

読書会タイムに私は各テーブルを回って質問を受けたのですが、その中にいくつか「ああ、そこは説明をしてなかったかもしれない」と思った点があります。マゾヒストたちには書かれてなくても「ビバノン」で説明していることもあるのですが、それはすっ飛ばして、どこにも書いていなかったかもしれない点を取り上げておきます。あの場にいた人たちに限らず、マゾヒストたち』を読んだ人には伝わってない可能性がありますので。

まずひとつめは、「Sの男、Mの女、Sの女、Mの男の中で、今回はMの男だったが、他は本にしないのか」という質問です。似た質問は複数の方にいただきました。

この質問で、「松沢はSMのすべてを取材してきた」と思っている人がいるかもしれないと気づいた次第。それは大きな誤解です。「Sの女とMの男」と「Sの男とMの女」とは別ジャンル。二丁目でもゲイとレズビアンはそんなに交流がないのと一緒です。女王様とM女とをどっちもやる人じゃなければ、女王様はM男としか会わないわけですし、M男さんは女王様にしか会わない。SMバーだと混在しますけど。

私は四半世紀以上、SM業界の取材をしてきたわけですが、対象はほぼ「Sの女とMの男」という関係に限定されています。「スナイパーEVE」はそこに特化した雑誌でしたが、それ以外のほとんどのSM雑誌において、その関係はサブであって、メインは「Sの男とMの女」です。とりわけ写真は「Mの女」が縛られているものが中心で、そこにおいて「Sの男」は黒子であり、写真には原則登場しません。

両者に通じる内容もありますが、それを除くと、8割程度は「Sの男とMの女」の関係でしょう。残り2割の部分である「Sの女とMの男」で私は仕事をしてきました。

「ビバノン」で説明してきたように、男のSと女のS、男のMと女のMは似て非なるものであり、社会的位置づけが違い、それに伴って内面も違いますので、いかに「Sの女とMの男」の記事を書いてきても、「Sの男とMの女」のことはわからないのです。関係性はわかっても、現に取材をしてきてません。

それぞれ重複する部分はあるにせよ、そちらをまったくと言っていいほど取材して来なかったので、蓄積が何もない。「Sの男」「Mの女」をクローズアップしようとすると、これから新たに取材するしかありませんが、すでにSM雑誌はほぼない中で、これをやるのは無理。また、私はそっちにまるで興味がないので、私の内的な動機としても無理。

 

 

逸脱した人々の魅力

 

vivanon_sentenceなぜ私の興味がそうも極端に偏るのかと言えば、「Sの男とMの女」という関係は社会一般に見られる男女の関係を性的なところに集約したしたものだからです。「男が主導して女が従う」という関係は、その辺のカップル、その辺の夫婦で見られるものですから、改めて知ろうとするまでもない。

それとSMはまた別ですから、その差の部分で聞くべきこともあるのでしょうけど、「M女とM女タイプ」に書いたように、M女タイプが私は苦手です。M女のすべてがM女タイプではなく、強靭で自己主張が強く、突き詰めるタイプのM女もいるでしょうが、おそらく少数であって、女王様やM男のように明快に語ってくれることはあまり期待できない。

その点、「Sの女とMの男」は、両者ともに規範から逸脱しています。逸脱している人は自分が何者かを考える孤独な時間があります。人にもあまり相談はできない。だから、そこに自分の言葉が生まれます。マゾヒストたち』に登場する人たちが「世界を見通した哲学者の言葉か」といった名言を吐いているのはそのためです。

また、SM雑誌では女王様が文章を書くことがよくありますが、それに比べるとM女が文章を書くことは少ない。言語化する機会があるかどうかの違いであり、女王様は文章を書くのが得意な人が多いのです。

そちらの人々に私は共感があり、理解できない多様な嗜好を持つ人々に、好奇心も刺激され続けてきたわけです。私は社会の規範に沿う人々より逸脱した人々の方が好きだし、わかりきった人々より理解しにくい部分を抱える人々の話を聞きたくなるのです。

※ここに出したのはAmazonで「SM小説」を検索すると上位に出る一冊で、他意はありません。これがM女イメージであり、『マゾヒストたち』の表紙が私のM男イメージ。後ろ向きの強靭さを見事に猫将軍さんが絵にしてくれました。それほど細かく指定したのではないはずですが、猫将軍さんが中を読んだ印象がああなったようです。この表紙については「猫将軍に描かれた強靭なマゾ—『マゾヒストたち』[無料記事編 6]」を参照のこと。

 

 

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