松沢呉一のビバノン・ライフ

社内恋愛禁止によってもたらされる問題をどう解決するか—懲戒の基準[39]-(松沢呉一)

Googleに必要なのは社内恋愛禁止規定—懲戒の基準[38]」の続きです。

 

 

 

普遍主義を職場に導入

 

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ものすごく極端な考え方をすると、社内恋愛禁止規定の導入は、フランス的普遍主義を会社に応用すると考えるとわかりやすいかもしれない。普遍主義に共感する人であれば。

つまり、職場では属性をすべて剥ぎ取る。職場では既婚者も未婚者もなく、男も女もない。ただの労働者と役員がいるだけ。そこでは上司、同僚、部下を性的な対象にすることも、恋愛の対象にすることも、仕事を超えた友人として考えることも禁止する。よって「飲みに行こう」と誘いかけること自体を禁ずる。職場でできた関係なのだから、外に出たら関係をもってはならない。

これを徹底していくと、同性愛者のカミングアウトも禁止。会社で属性の話をするなということにもなってきそう。

なぜ私的領域のことなのに職場でもカミングアウトする必要があったのかと言えば、隠すことに対するストレスが増大するためです。定食屋でメシを食うのに、わざわざカミングアウトする必要は通常ないわけですけど、職場ではそうはいかない。

恋愛、セックス、結婚についての会話が交わされるためです。社内結婚となると、上司が仲人をやって、同僚や部下も出席し、披露宴の準備にも駆り出され、会社は祝い金も出し、半ば会社の行事にもなります。

その時にどうしたって恋人や結婚の話にもなって肩身の狭い思いをするなんてこともあって、だったら最初から言っておいた方がいいってことにもなりますが、こういうことを一切会社に持ち込まないことにすれば、そんな会話はする必要もない。雑談でもそんなことを言ってはいけない。当然、職場結婚はなくなります。

「奥さんはどんな人ですか」「お子さんはいるんですか」「結婚しないんですか」といった質問は私だってたびたびされてきていて、とくにそれでイヤな思いをしたことはないですが、同性愛者に限らず、結婚したくてもできない人についてはイヤな思いをする人もいるでしょう。

そういうことは一切聞かない、話さないということにしてしまえば同性愛者に限らず楽になる人たちがいて、職場でカミングアウトする必要もなくなります。あとは家族や社会に向けてカミングアウトする必要が残るだけ。

現状では「子どもの運動会だから、日曜出勤は無理」と言い出して、代わりに独身者が日曜出勤をするなんてこともありますが、そんなプライバシーに配慮する必要もなし。結婚しているかどうか、子どもがいるかどうかなんて知る機会をなくせばいい。それを職場で持ち出したら懲戒です。家族の写真を職場で見せたり、そういった写真を机の上に出していたら懲戒。

早退する場合、欠勤する場合も、「子どもが熱を出して」「親が倒れて」なんて言わなくていい。「事情があって」と言うだけでいい。

そこまでやらんでいいけれど、考え方としてはこういうことです。

※職場でカミングアウトすることの意義とデメリットについては JobRainbow掲載「就活・職場でカミングアウトってするべき?すべきでない?」あたりを参照のこと。

 

 

職場にすべてを求め過ぎなのでは?

 

vivanon_sentenceこういう考え方に対して「職場が殺伐とする」「会社に行く気が失せる」みたいな抵抗感がある人も多いだろうと思いますが、職場に温もりや優しさ、安らぎ、潤いみたいなものを求めるのは間違いだと思います。それは私的領域で充実させればいい。なぜそちらを犠牲にしてまで職場にすべてを託そうとするのでしょう。

よく先進国の中で日本は労働時間が長いとされますが、ヨーロッパ各国に比して長いのは事実として、米国より少ない。

 

総務省のサイトより「平成29年版 情報通信白書」

 

 

意外ですね。日本は働きすぎというよりも効率が悪いのが特徴です。

効率の悪さについてはさまざまな要因がありますが、だらだら会社に残って仕事をするのが悪い。仕事のあとも一緒に食事をしたり、酒を飲んだりすることが恒常化していると、もっとも仕事を終えるのが遅い人に合わせて「もうちょっとかかるから、待っていて」ということになりがち。「先に行ってて」「先に行ってるね」とやればいいだけなんですけど、それができない人たちが多いのです。

「プライベートの時間がとれない」と嘆いている人たちは無駄に会社にいる時間が長いことと、そのあとまで職場の人間といることが相当影響していましょう。

それを一切やめてしまえば効率が上がり、トラブルは減ります。職場の人間で酒を飲む席であってもセクハラは成立しますから、この習慣をやめればいい。酒とトラブルはワンパック。マクドナルドを見習え

 

 

減少している職場結婚

 

vivanon_sentenceこれを実現すると、社会全体の問題が浮上します。プレジデントの記事では、日本では残業や休日出勤が多いため、職場恋愛、職場結婚が多く、恋愛禁止にはしにくいという話が出ています。仕事関係でしか相手を探せない人たちはどうしたらいいんだって問題が出てくるのは必至です。

しかし、日本でも相当に状況が変わってきています。

 

 

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