松沢呉一のビバノン・ライフ

猫町倶楽部での質問 [3]/今もまだ日本人街娼はいる—『マゾヒストたち』(15)-(松沢呉一)

猫町倶楽部での質問 [2]/ウンコは食べていいもの?—『マゾヒストたち』(14)」の続きです。

 

 

 

インタビューのコツ

 

vivanon_sentence猫町倶楽部の読書会タイムでも聞かれましたし、懇親会でも「インタビューのコツや注意すること」についての質問がありました。

インタビュー一般に言えることとしては、相手の話を面白がり、なおかつそれを表に出すってことかと思います。多くの人は、相手が面白がってくれていると、どんどん口が軽くなりますし、面白くないんだろうなと思うと、「腹が減ってきたので、この辺にしておくか」と切り上げたくなるってものです。

闇の女たち』も『マゾヒストたち』も、私にとっては強い関心のある対象であり、無理にそうしようとしなくても、話を聞くのが楽しくってしょうがない。たんに面白がるだけじゃなく、私は彼らに共感をし、その生き方を肯定する気満々です。肯定的に聞いてくれる人には心を開くってものでしょう。肯定できない人は近づかないのが賢明です。

とくに街娼のおねえさん方には「このことを話したのは初めて」みたいなことを言われることがよくありましたが、そうなるのはおねえさん方の話が面白いために私が大喜びで話を聞くからだろうと思いますし、わかりやすく私が反応するからだろうと思います。そもそも彼女らに話を聞きたがる人はまずいないわけですけどね。警察くらいか。

人によっては相手を喜ばすためのお世辞を繰り出すのでしょうけど、私はそういうことができず、その分、自分の感情がそのまんま外に出やすい。性格的に内面が外に出にくい人は意識して出すようにした方が盛り上がるってものです。

街娼について言えば闇の女たち』の第二部を読んでいただければわかるように、こちらには相当の蓄積があるので、おねえさん方がそういう話を面白がってくれることもありました。歴史的に話は積極的にこちらから話すことはなかったので、そう多くはなかったですけど、「今現在の他地域の事情」については聞きたがる人たちはいました。蓄積があればあるほど、相手も興味を抱くものです。

という話をしたのですが、言うのを忘れていたことがあります。マゾヒストたち』に雑誌の心得として軽く書きましたが、面白がってはいけないところで笑うのは禁物。たとえばウンコやオナラの話は、一般には笑いながら話すものじゃないですか。でも、彼らは笑いどころとして話しているわけではないところで笑われると、バカにされたように感じます。そこは敏感です。彼らとて笑いどころとして話していることもありますが、性癖に直結するところでは笑わない方が無難です。

性癖じゃなくても、笑うのが常道のテーマでは気をつけた方がいい。私は現在包茎復元作業中です。自分でも半笑いでやっているので、私に限っては笑ってくれていいのですけど、自分の意思ではなく皮を切られて復元しようとしている人たちは真剣です。笑われると傷つきます。

なぜか男の性は笑っていいことになっていて、これがいよいよ彼らを追い込みます。男の性は笑っていいことになっているために深刻さが伝わらないことの問題については、引き続き「包茎復元計画」で考えていきます。

 

 

どうやって街娼に声をかけたらいいのか

 

vivanon_sentence上の質問の流れで、街娼のおねえさん方にどうやって話しかけたらいいのかとも聞かれたのですが、これはケースバイケースで一律ではありません。

警察であるかもしれないことを警戒して、彼女らはやたらには声をかけません。鼠鳴き(ねずなき/ねずみのように口でチューチューと音を出すこと)をする人もいますが、これも稀です。

ロケーションと服装や化粧などの外見と目の動きで判断してこちらから声をかけるわけですが、確信のある時は「景気はどうですか」みたいに話しかけることもあります。確信のない時は道を聞くところから始めたり。

その質問をしてきた彼には「いっそ客になる手もある」という話をしたのですが、よく考えると、これは微妙。キャバ嬢でもヘルス嬢でも、「男と一緒に住んでいるとわかったらもう来てくれないかもしれない」と考えて、客には本当のことを言わない人も多いですから。「そういうことを言っても大丈夫な客」と思ってくれればいいんですけどね。

結論を言うと、広島や博多のように、わかりやすいところにわかりやすく立ってくれている人以外、見抜くのは難しいので、やめた方がいいと思うなあ。私が取材していた頃よりさらに日本人街娼はいなくなっていて、そんなハードルの高いところで後追いをするより、誰もやっていないことをやった方がいいと思います。間違って声をかけると迷惑ですしね。

 

 

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