松沢呉一のビバノン・ライフ

「お許し下さい」とAVのストップワード—包茎復元計画[番外1]-(松沢呉一)

映画「童貞。をプロデュース」の件—包茎復元計画[7]」と「自分がわかっていることを他人がわかっていないことに気づきにくい—包茎復元計画[10]」の続きなのですが、包茎復元と話が離れ過ぎるので、今回と次回は「番外」としました。

 

 

 

同じ体験をしても違う受け取り方になる

 

vivanon_sentence猫町倶楽部の意義と、前回書いた話は交錯しているところがあります。いざ話してみないと、他人が何を考えているのかわからない。同じ本を読んでも、読み方も違うし、面白がるところも違う。そのことがあの場ではよく見えたのが私にとっての収穫でした。「私はこう思う」から「他人もそう思うに違いない」と決めつけてしまうのは禁物。

前回書いたエピソードは面白い体験を生み出してくれました。私にとって尻にディルドを入れることはただの痛みの問題です。今までそんなことはされたことがなかったとは言え、そこにそれ以上の意味はない。

一方、世の中にはそこに大事な意味を見出す人もきっといて、「尻の童貞、尻の処女を奪われた」と感じて、至上の喜びとしてSMクラブに通う人もいますし、それをあってはならない性的強要と感じる人もいましょう。ここは人によりけりで、その人たちの考え方、感じ方自体は尊重されていい。

通常、あれを性的強要と考えるような人を編集者はライターとして起用せず、そんな考えの人はああいった取材を引き受けませんけど、何かの間違いで起用してしまい、深く考えないまま引き受けてしまった場合どう考えるべきか。起用した側にも問題がありそうですが、引き受けた側にも問題がありそう。

Amazonで売られているガラス製ディルド。2,848円。チンコグッズが好きな私としては一本欲しい。強化ガラスでしょうから、そう簡単には割れないにしても、入れられるのは怖い。根本部分が小さいため、ケツに入れると取れなくなる可能性もあります(実例は『マゾヒストたち』参照)。見て楽しむだけにした方がいいかもしれない。

 

 

合意があったか否か

 

vivanon_sentenceSMクラブで体験取材することについてははっきり私は合意していました。イヤなら断ればいいだけ。撮影をすることにも私は合意しています。それもイヤなら断ればいいだけです。「仕事になる」「初めての体験ができる」「面白そう」「女王様、きれい」といった動機があって私は引き受けたのであり、そういった動機がない人は断るべきです。フリーライターというのはそうしていいもの。

そこに合意したからと言って、何をされてもいいということにはならないのは言うまでもないとして、SMクラブで通常やっていることをやられるのは当然です。ディルドをケツに入れるのは定番のプレイであって、それを知らなかったのであれば、下調べをしていない私の責任です。「お許し下さい」を知らなかったことも同様。文句をつけても、「そのくらい事前に調べろよ」で終わりにされるだけです。

お許し下さい」を知らなかったとしても、私が「てめえ、オレの大事なケツになんてことを」と怒鳴れば女王様はやめます。それをしなかったのは自分の責任。

あとになって「断ったら以降仕事が来なくなるかもしれないので、イヤだったけど、断れなかった」なんて言い出しても、編集者も女王様も「知るか」って話です。黙っていても、自分が何を考えているか察知して当然なんて考えは通用しません。

これを覆されると、あらゆる「合意」は成立しなくなりかねない。人の内面なんてわかるはずがないんですから、はっきり意思表示はなされなければならない。それができないのは子どもや心神喪失の状態にあると認められた人(旧「禁治産者」)たちと、会社の上司と部下、あるいは学校の教員と生徒のように、絶対的な上下関係が存在し、離脱が容易ではない時だけだろうと思います。

※こちらもAmazonで売られている固定使用ディルド。1,990円。冷蔵庫や風呂場のタイルに固定できる吸盤がついています。キンタマ状のものがついていて奥に入り込みませんので、安心さね。

 

 

童貞。をプロデュース」について裁判で明らかにして欲しいこと

 

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ここで契約書を交わしたところで事情は同じ。編集者だって、女王様が何をするかまではわからないですから、「SMクラブでM体験をする」としか契約書には書きようがなく、私は「合意する」にマルをつけるだけです。

もし私がその時のプレイを納得できなかったとしても、どうにでもできたことをどうにもしなかった自分の責任ですから、「強要された」なんて言い出すのではなく、「自分はこの仕事に向いてない」「自分はSMに向いていない」と悟るだけです。これ以降、SMの体験取材は断るし、それ以外でも、自分がわかっていない世界には近づかないようにするでしょう。

私であれば、その体験がいかに不快だったとしても、そう納得します。

 

 

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