松沢呉一のビバノン・ライフ

音楽と声の関係—性風俗店のBGMを考察する[中]-[ビバノン循環湯 565]-(松沢呉一)

GACKTで初めてイッた女—性風俗店のBGMを考察する[上]」の続きです。このシリーズを書いた際に、何軒かの性風俗店に話を聞きに行ってますが、音楽雑誌とエロ雑誌とは分野が違い、切口が違い、読む人も違うので、エロ系の雑誌に書いたことを使い回してもいます。ご了承ください。

 

 

 

声指名につながる声出し

 

vivanon_sentence前回、ピンサロにおけるBGMの意味合いについて考察したが、ユーロビート一辺倒のピンサロと他業種はまた違う。

ファッションヘルス(関西ではファッションマッサーと言う)でも、法律上は、個室と個室の間にある仕切の上を開けなければならず、完全に密閉することは違法。これまた音が洩れやすい。

その点では、ピンサロと同じだが、ヘルスはピンサロほど慌ただしくなく、「ゆったりと落ち着きたい」という客もいる。また、店の従業員や同僚から顔が見えない分、女のコたちも、声を聞かれることをそれほどは嫌がらない(のもいる)。

ということから、声が筒抜けになるのに、BGMを流していないか、流していても、小さい音でしか流さない店がある。あえて女のコの声を聞かせるのである。女のコの喘ぎ声がBGMってわけだ。

「声出し」とも言うのだが、女のコらに「他の部屋に聞こえるような大きな声を出すように」と指導する店もある。わっかりやすく言えば、「演技の声を出せ」ということだが、声を出すことで気持ちも高まることもよくあるので、結果、本気で感じるということにもつながっていく。

「アーン、アーン」と店中に声が響き渡って、いやらしさを醸し出し、場合によっては、「隣の女のコは誰?」と客が気になって、次回指名することもある。姿が見えない分、想像力をかきたてられるのだ。これを「声指名」という。いい声を出せるコは有利なんである。

 若いコたちだと声を出すのは抵抗があるし、幻想を抱いて来ている客の中には、あんまり激しいと、「しおらしい僕のアミちゃんが獣のような声を出して……」と退くケースもあるため、これを積極的にやるのは人妻系の店だ。奥様たちはためらいがなく、他の部屋の声が聞こえくると、自分も興奮するというのが多いのである。

※C.Gilhousen「NUDE

 

 

彼女がBGMの音量を上げるとき

 

vivanon_sentenceといったような事情で、風俗店のBGMは選択されるのだが、ここに個別の事情が加わる。昨年夏に潰れたが、渋谷にあった性感ヘルスに姫ちゃんというコがいた。その後は池袋の店に移り、今も仲がいいんだが、私はこのコと遊ぶために当時はよく渋谷のこの店に行っていた。

姫ちゃんはなかなかイカない体質で、とくに店ではめったにイカない。しかし、私は彼女のツボをすっかり押さえているため、十中八九イカせる。そこで、そこで彼女は私が来ると、フロントに行って、「ボリュームをあげて」と頼むんである。

彼女は、隣の個室に友人のセーラちゃんというのがいる時は声を抑える。セーラちゃんは平気で大きい声を出しているんだが、姫ちゃんは友人に声を聞かれるのは抵抗がある。しかし、イクときは声を抑えられなくなるため、BGMで消すのである。

彼女がフロントに行ってBGMの音量が上がると、「こいつ、今日もイク気だな」と私はその意気込みを理解する。音量でわかる阿吽の呼吸である。高度な風俗マニアにのみ可能なコミュニケーションと言えよう。

 

 

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