松沢呉一のビバノン・ライフ

アンスラックス(炭疽菌)が生物兵器に向いているのに対してコロナウイルスは向いていない—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[3]-(松沢呉一)

「チフスのメアリー」で考える感染症対策の迷い—新型肺炎(COVID-19)について触れにくい事情[2]」の続きです、

以下に書いている「COVID-19は人口的に作られたウイルスではあり得ない」という話は撤回します。詳しくはその事情は「「新型コロナウイルスは実験室で人工的に作られた説」を中国政府までが支持—COVID-19の起源」「人工ウイルスが漏れたとしてもなんらおかしくない—フレッド・グテル著『人類が絶滅する6のシナリオ』より[5]」を参照のこと。

 

 

 

恐怖を拡散するアンスラックス

 

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お雇い外国人医学者であるドイツ人のベルツ(Erwin von Bälz/1849-1915)が明治22年に著した医学書『内科病論』を読んでいたら、発見がいろいろありました。

「こんな時に何を読んでんだ」って感じですが、あまりに感染症の知識が乏しいので、一から勉強をしているところなのです。だからって明治のものを読まんでいいわけですけど、「今この瞬間誰も読んでいないもの」を読むのが好きなのと、国会図書館がネット公開しているものですから、タダで読めます。

この本で気づいたのですが、アンスラックス(Anthrax)は「脾脱疽(ひだつそ)」って病気の英名(および細菌名)なのか。脾脱疽って何かと思ったら、炭疽菌による病気の旧名でした。

炭疽菌は細菌学において重要な役割を果たしていて、1876年、ロベルト・コッホ(Heinrich Hermann Robert Koch)は、炭疽菌が炭素症の原因になることを発見。これによって世界で初めて病原菌が病気の原因になることを発見し、1882年、コッホは結核菌を発見、1883年にはコレラ菌を発見していきます。

第二次世界大戦では生物兵器として炭疽菌が注目され、今に至るまで生物兵器に利用される筆頭の細菌です。タイプと感染部位によるようですが、肺に感染すると、致死率90%以上(未治療の場合)であり、この致死率の高さが生物兵器向きです(生物兵器の他の条件については下記参照)。

メタルバンドやパンクバンドはこういうネーミングが好きですわね。赤痢とか。アンスラックスは音感がスマートなのに対して、赤痢は血で赤くなった下痢のことです。汚いな。パンクだからいいのか。

Wikipediaのアンスラックスの項によると、これについてはちょっとした騒動があったようです。米国の炭疽菌テロで注目されて、バンド名を改名することまで考えたとのこと。案外気が小さい。

感染症の研究は生物兵器の研究と表裏です。生物兵器を作るつもりじゃなく、防御のためにも研究は必須。

国立感染症研究所は新宿区戸山と武蔵村山にあります。戸山は日本の感染症研究、そして細菌兵器研究の拠点だった場所です。武蔵村山はハンセン病の国立療養所多磨全生園がある場所です。

今現在、国立感染症研究所が細菌兵器製造のための研究をしているわけではないですが、歴史はつながっています。

※アンスラックスのセカンド・アルバム「Spreading the Disease」(邦題「恐怖のスラッシュ感染」)

 

 

生物兵器ではない、しかし、漏れた可能性は否定できない

 

vivanon_sentence「コロナウイルスは中国科学院武漢ウイルス研究所から漏れた」、あるいは「中国科学院武漢ウイルス研究所の細菌兵器だ」という話が繰り返し出てきます。これに対してすぐに「陰謀論だ」と切って捨てる人たちがいますが、このふたつを等しく扱って陰謀論とすることは陰謀論同様に軽卒です。

今のところ、以下の記事がもっとも信頼できます。

 

2020年02月12日付「東洋経済ONLINE」より

 

 

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